ノンバンクに関する懇談会報告書

ノンバンクの業務運営のあり方、資金調達の多様化等 1.我が国のノンバンクの現状

(1)ノンバンクの多様性 ノンバンクは、「預金等を受け入れないで与信業務を営む企業」を指 す総称として使われている。 ノンバンクは、法令等により専業義務が課せられていない等、業務運 営面での自由度が極めて高い。その形態は、消費者金融会社、クレジッ ト・カード会社、信販会社、事業金融会社、抵当証券会社、リース会社 等、様々である。また、ノンバンク約3万社/人(貸金業規制法上の登 録業者数)のうち1%弱にあたる融資残高上位約250社(融資残高 5 00億円超)で、登録業者全体の融資残高の約7割を占める等、少数の大 手ノンバンクが市場の大半を占める一方、極めて多数の中小零細業者が 存在するという、二極構造となっている。 ノンバンクに関する諸問題を検討するにあたっては、こうしたノンバ ンクの実態に留意する必要がある。しかし、当懇談会においては、時間 的な制約もあり、ノンバンクの多様性に留意しつつも、「与信業務を営 む」という共通の特性に重点を置いて検討を行った。

(2)ノンバンク全体の融資残高 ノンバンク全体の融資残高は、貸金業規制法上の登録業者の融資残高 でみると、バブル期の昭和62年度から平成2年度にかけて、毎年度、4 割以上の高い伸びを示したが、平成3年3月末の約85兆円をピークに 減少に転じ、平成8年3月末で約69兆円となった。これは、全国銀行 の融資残高(平成8年3月末で約481兆円)の約14%に相当する。 このように、ノンバンクは、今日なお、我が国の金融システムの中で相 当のプレゼンスを有している。

(3)事業者向けノンバンクの現状 事業者向けノンバンク(主として事業金融会社、不動産関係金融会社 等)は、バブル期に不動産関連融資等を中心に業容を拡大してきたが、 バブル崩壊後、融資先の業況悪化や担保価値の下落等により、多額の不 良債権を抱えているところが多く、全体の融資残高もここ数年減少して いる。また、リース会社等で、本業を離れ、不動産関連融資に傾注した 企業においても、多額の不良債権を抱えているところが少なくない。 他方、事業者向けノンバンクの中には、中小企業向け融資を専門に行 うノンバンク等、特定の分野において、不動産担保に安易に依存せず、 独自の審査能力を発揮し、差別化を図る等により、業容を拡大している ところもある。

(4)消費者向けノンバンクの現状 消費者向けノンバンク(主として、消費者金融会社、クレジット・カ ード会社、信販会社等)は、消費者ニーズの多様化に応え、バブルの前 後を問わず、一貫して融資残高を伸ばし、業容を拡大している。他方、 消費者信用の分野では、バブル崩壊後、個人の自己破産件数が急増し、 平成8年、過去最高の約5万6千件となる等、多重債務問題が深刻化し ている。

2.ノンバンクの業務運営のあり方

(1)融資業務の特性 融資業務においては、融資先の将来の返済能力には不確実性が伴うこ とから、融資先のリスクに関する事前の情報収集・分析(審査)や、事 後の管理(監視)が極めて重要となる。また、融資業務は、バブル期に みられたように、投機的取引と結びついて際限なく拡大してしまう危険 もあり、融資者の厳しい自己規律と適切なリスク管理が求められる。 更に、貸付債権の価値は、融資先の返済能力、返済努力等に依存し、 その劣化状況は、外部から判断しにくい。この点に関しては、貸付債権 に係る会計処理の改善に向けた検討が関係者間で進められている。 なお、ノンバンクが行うこのような融資先に対する審査・監視活動を 通じた機能は、銀行等の預金受入金融機関(以下、「銀行等」という) の行う金融仲介機能と同様のものと言える。

(2)バブル期における問題等 ノンバンクは、国民のニーズが多様化する中で、その自由さと機動力 を活かし、銀行等が積極的に取り扱ってこなかったニッチマーケットを 積極的に開拓してきた。具体的には、銀行等にはないノウハウを活かし た小口の分野や専門性の高い分野、リスクは高いが将来性のある分野等 であり、ノンバンクは、こうした分野に資金を提供することにより、産 業界及び国民経済において重要な役割を果たしてきた。 しかしながら、バブル期においては、投機的な不動産取引が拡大する 中で、事業者向けノンバンクを中心に、ノンバンクの多くが本来の専門 分野からは離れた、不動産関連融資に過度に傾斜した業務を展開し、そ の結果、多額の不良債権を抱えるに至っている。もっとも、こうした事 情は、他の金融機関にも共通するものであり、ノンバンク固有のもので は必ずしもない。しかし、ノンバンクに累積する不良債権について、特 にその背景を挙げれば、イ)ノンバンクの融資態度やリスク管理に問題 があったこと、ロ)ノンバンクに貸し付けていた銀行等のモニタリング 機能が有効に働いていなかったこと、また、銀行等の一部には、系列ノ ンバンクを活用して積極的に融資の拡大を図るものも見受けられたこと ハ)ノンバンクの市場からの資金調達に制約があり、市場(機関投資家 格付機関等)による監視が十分に働かないシステムであったこと、等が ある。

(3)今後のノンバンクの業務運営のあり方 今後、ノンバンクは、バブル期にみられた不動産関連融資への過度の 傾斜等、安易な融資姿勢を改め、リスク管理を徹底するとともに、その 専門性、独自性を発揮し、差別化を図っていくことが必要である。また 今後、外国系ノンバンクの国内進出や、我が国の大手ノンバンクの海外 展開が進んでいく中で、大手ノンバンクの国際的競争力の強化も課題と なってくるものと考えられる。 今後、ノンバンクは、このような自助努力を重ねつつ、国民のニーズ の多様化に応えた様々なサービスの提供や、次代を担う成長企業等への 資金供給等を行うことにより、我が国経済において健全に発展していく ことが期待される。

3.ノンバンクの金融システム上の位置づけ

(1)基本的考え方 ノンバンクは、預金等を受け入れておらず、また、決済システムを中 心とする信用秩序にも直接関わらないことから、銀行等とは異なり、経 営の健全性維持の観点からの規制・監督を受けていない。ノンバンクは 貸金業規制法に基づき、主として借手の保護の観点からの規制・監督を 受けるに留まる。 他方、既に述べたとおり、近年、ノンバンクの国民経済的役割やその 融資規模は拡大しており、特に大規模ノンバンクについては、その破綻 が借手の円滑な資金調達や貸手である銀行等の経営に影響を及ぼしかね ない場合もある。従って、ノンバンクは、厳格な自己規律と自己責任原 則の下、リスク管理の一層の強化等を通じ健全な経営を実施していくこ とが求められる。その際、ノンバンクの経営の健全性は、基本的には、 市場の規律に委ねられ、不健全な経営により破綻したノンバンクは、速 やかに市場からの退出を迫られることになる。従来、ノンバンクに対し ては、こうした市場による監視が十分に機能してこなかった。今後、個 々の銀行等が融資先のノンバンクに対する与信審査・与信管理を一層充 実させ、そのモニタリング機能を高めていくことを期待するとともに、 市場メカニズムがより有効に機能するような制度の整備が必要と考えら れる。 なお、大規模ノンバンクの自己規律を促すとともに、市場の監視機能 の強化に資する観点から、貸金業規制法上の事業報告書の徴求対象とな る大規模ノンバンク(融資残高 500億円超)について、会計監査人(公 認会計士又は監査法人)の監査機能の拡充を図るとともに、融資基準、 審査体制(リスク管理体制)、基本的な経理基準等について、貸金業規 制法の登録申請書の記載事項とし、登録官庁における登録簿の閲覧制度 を通じて公表することとしてはどうか、との意見があった。

(2)ノンバンクの破綻と金融システムの安定 ノンバンクが破綻することによって、貸手である銀行等の経営の健全 性に影響が及ぶ場合も考えられる。銀行等の経営の健全性の確保につい ては、平成8年6月に成立したいわゆる金融3法で導入された早期是正 措置が平成10年4月より実施される予定であり、また、銀行等の預金者 を保護するセーフティ・ネットについても、金融3法等により整備が図 られたところである。このように、現在、銀行等に対する監督行政に関 する諸制度の整備等を踏まえつつ、自己責任原則の徹底と市場規律に立 脚した透明性の高い金融行政への転換が進められつつある。従って、ノ ンバンクの破綻処理についても、こうした新しい金融行政の考え方を踏 まえ、公的な関与は行わないという原則を今後とも徹底していくべきで ある。

4.ノンバンクの社債発行による貸付資金の受入れ 現在、ノンバンクは、「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに 関する法律」(以下、「出資法」という。)第2条第3項の規定により 貸付資金に充てることを目的として、社債の発行により不特定かつ多数 の者から資金を調達することが禁止されている。当懇談会においては、 ノンバンクの資金調達の多様化等の観点から、同項による規制について 検討を行った。

(1)出資法第2条第1項の趣旨 出資法は、いわゆる保全経済会事件等、戦後の混乱期に続出した悪徳 業者による一般大衆被害を契機に、昭和29年に制定された刑罰法規であ る。同法第2条第1項は、「業として預り金をするにつき他の法律に特 別の規定のある者を除く外、何人も業として預り金をしてはならない」 と規定している。即ち、同項の趣旨は、業として、不特定かつ多数の者 から元本保証をして金銭を受け入れること(預り金)について、銀行等 法律に特別の規定のある者を除き禁止することにより、一般大衆の預金 等を保護しようというものである。 同項違反により摘発される事件は、現在でも数多く見受けられ、同項 の規定は、今日なお、一般大衆の保護に一定の効果を有している。

(2)出資法第2条第3項の趣旨 また、出資法第2条第3項は、「主として金銭の貸付けの業務を営む 株式会社(銀行及び証券金融会社を除く)が、社債の発行により、不特 定かつ多数の者から貸付資金を受け入れるときは、業として預り金をす るものとみなす」と規定している。同項の趣旨については、一般に、 「貸金業者が社債の発行により不特定かつ多数の者から貸付資金を受け 入れるときは、その業務が銀行業務的性質を帯びることになり、銀行等 のように法令の厳重な規制を受けない貸金業者にこれを認めることは著 しい弊害を生ずるため」等と説明されてきた(立法当時の法務省刑事局 担当者の解説等)。この「銀行業務的性質を帯びることによる弊害」に ついては、以下の2つの考え方が背景にあったと考えられる。 @一般大衆の保護の観点 貸金業者が社債により不特定かつ多数の者から資金を調達して融資業 務を行う場合には、銀行業務に類似した性質を帯びることになるが、社 債市場が未成熟で、社債についての認識が国民一般に十分浸透していな かった当時としては、一般大衆が銀行等の預金等と誤認して金銭を預け てしまう惧れがあったことから、第3項において「預り金」とみなし、 禁止の対象とすることにより、一般大衆の保護という第1項の趣旨を徹 底する必要があると考えられたこと。 A金融仲介業務を銀行等に限定する観点 更に、およそ不特定かつ多数の者から資金を集め貸付を行う業務(金 融仲介業務)については、企業部門が資金不足状態にあり、限りある資 金を国民経済の発展のために有用に配分することが求められていた当時 としては、その業務は極めて公共性の高いものと認識され、免許制の下 厳しい規制・監督を受ける銀行等に限定すべきであると考えられたこと

(3)出資法第2条第3項の今日的意義 同項の趣旨について、今日の状況を踏まえ、改めて検証すると、以下 のような整理ができよう。 @一般大衆の保護の観点 近年、我が国の社債市場においては、商法、証券取引法等による市場 ルール、投資家保護のための諸制度が整備され、また、引受証券会社、 社債管理会社、格付機関等の市場関係者の健全な発展も見受けられる等 出資法制定当時と比較すれば、格段に市場は整備されてきている。こう した状況を踏まえると、一般大衆が貸金業者の社債について、銀行等の 預金等と誤認して金銭を預ける惧れはほとんどなくなっており、従って 同項により禁止する意義は失われつつあると考えられる。 A金融仲介業務を銀行等に限定する観点 出資法制定当時の資金不足時代においては、企業部門に資金を配分す る金融仲介業務は極めて公共性の高い業務と考えられ、また、現在のよ うな大規模ノンバンクの隆盛も予想されなかったことから、金融仲介業 務を銀行等に限定することには一定の意義があった。しかし、企業部門 の資金不足が解消された今日では、むしろ金融仲介の多チャンネル化が 求められている状況にあり、同項によりノンバンクの社債発行を禁止す る意義は失われつつあると考えられる。 また、実態をみても、今や200近い金融機関から融資を受けている ノンバンクがあることや、銀行等の側も積極的に関連ノンバンクを活用 して金融仲介を行っている等、出資法第2条第3項の禁止の趣旨自体が 形骸化してきているとも言える。

(4)ノンバンクの資金調達の多様化の意義 出資法第2条第3項に基づくノンバンクの市場からの資金調達に係る 制約を廃止することについては、以下のようなメリットがあることを積 極的に評価すべきである。 @金融仲介チャンネルの多様化により、経済全体の資金配分の効率化に 資する。 A市場による監視機能の導入により、金融システムの透明化、安定化に 資する。 即ち、市場(機関投資家、格付機関等)の評価が調達コストに反映さ れ、評価の低いノンバンクについては、最終的には、市場からの資金 調達の途が閉ざされることにより、早期に淘汰され得る。 Bノンバンクの資金調達の多様化・弾力化により、貸出金利の低下の可 能性が高まる。 Cノンバンクの銀行依存が低下し、ノンバンクの自主性の発揮や創意工 夫を凝らした事業展開が期待される。 D社債市場の厚みが増すとともに、同項の趣旨を踏まえたノンバンクの CPや債権流動化に係る制約も廃止されることにより、証券市場全体 の発展及び債権流動化・証券化の進展が期待される。

(5)ノンバンクの資金調達に係る制約の見直し 以上を踏まえると、出資法第2条第3項に基づくノンバンクの資金調 達に係る制約については、基本的に廃止すべきものと考える。

5.ノンバンクの資金調達の多様化に伴い留意すべき点

(1)金融システム改革後の金融のあり方との関連 ノンバンクが社債の発行により不特定かつ多数の者から資金を調達し 融資業務を行うこととなれば、ノンバンクの金融仲介機能は、より銀行 等の金融仲介機能に類似したものとなる。他方、今後、金融システム改 革(いわゆるビッグ・バン)が進展した状況を考えると、このような金 融仲介機能の拡大が実現し、業態にとらわれない活発な競争が一層展開 され、投資家に対して多種多様な金融商品・サービスが提供されること になるものと考えられる。これらの金融商品・サービスについては、デ ィスクロージャー等の市場ルールを前提とした投資家の自己責任原則を 基本としつつも、当該サービスの担い手に関しては、金融取引の仲介や 金融資産の管理・運用といった、その業務に係る共通の特性を考慮した 場合、投資家の保護や取引の公正の確保等の観点から、通常の事業法人 と全く同じ取扱いでよいかどうかについて、更に検討を行う必要があろ う。なお、この問題は、バンク(銀行)の機能をどのように考えるかと いう問題とも関係する。 現在、これらの担い手については、個別の業法において規制・監督が 行われているが、経済環境の変化や金融技術の発達の中で、業法という 枠組みが制約となり、個人・家計等の資産運用の効率性や公正さを阻害 する惧れがあるとの指摘がある。金融商品・サービスの多様化に対して は、今後、投資家、消費者等の自己責任を前提に、利用者の視点を重視 した統一的、包括的なルールを構築する方向での検討が行われることが 望ましいと考えられる。 そのような観点から現行の出資法についてみた場合、元本保証付きの 出資金や預り金の受入れを禁止することにより、一般の投資家や消費者 の保護に一定の役割を果たしているとは言え、立法当時に比べ、金融商 品・サービスや、その担い手が著しく多様化しつつある今日、現行法の ような規制のみでは必ずしも十分とはいえず、証券取引法のような行為 規制を課すとともに、その実効性を期すための規定の整備や、金融犯罪 及び悪質業者のより効果的な取締りのための規定の整備についても、今 後、併せて検討していく必要がある。 ノンバンクの融資業務向け社債発行の自由化にあたっては、このよう な金融サービス・取引等に係るルールの枠組みについての検討の方向を にらみつつ、現状における対応として、ディスクロージャーの強化や、 金融サービスとしてのノンバンクの業務の特性を踏まえた投資家保護、 不公正取引の排除等の最低限の措置を講じておく必要があると考えられ る。 なお、同様の問題意識から、当面、ノンバンクの融資業務向け社債発 行の自由化にあたっては、イ)機関投資家向け等に限定すべきではない か、ロ)社債管理会社の設置の義務づけ、直接募集の禁止等の条件を付 すべきではないか、ハ)一定の格付以上のノンバンクに限定すべきでは ないか、との意見があった。 また、社債を発行するノンバンクに対して融資業務の特性を踏まえた 措置を講じる場合には、現行の貸金業規制法上適用除外となっている企 業で、独立的に融資業務を営んでいるものについても同様に扱うべきで はないか、との意見があった。

(2)ディスクロージャーの強化 一般に、社債を含む有価証券に係る投資家保護は、証券取引法による ディスクロージャーや公正取引ルールによるのが基本である。 但し、証券取引法上のディスクロージャーが有効に機能するためには 適正な会計処理が行われ、資産の状況が適切に財務諸表に反映されるこ とが前提となる。この点、貸付債権の会計処理の現状についてみると、 償却基準の明確化等今後改善すべき点が多い。これは、必ずしもノンバ ンク固有の問題ではないが、銀行等に関する償却基準の整備が進捗して いること等を踏まえ、銀行等以外の者についても、貸付債権の会計処理 の一層の適正化に向けて、今後、関係者間で更なる検討が進められるこ とが期待される。また、融資業務において、融資基準や審査体制(リス ク管理体制)、大口融資の状況等が重要であることを踏まえると、これ らの事項についてもディスクローズされることが適当である。これらの 事項については、現行の証券取引法上、有価証券報告書等において記載 することは可能であるが、義務づけはなされていない。 以上の点を踏まえ、現状において、ノンバンクの社債発行を自由化す るのであれば、社債を発行するノンバンクについて、不良債権の状況、 融資基準、審査体制(リスク管理体制)、大口融資の状況等、ノンバン クの融資業務の基本となる事項についてディスクロージャーを義務づけ ることが必要と考えられる。具体的には、これらの事項を有価証券報告 書等の「事業の概況」、「営業の状況」、財務諸表の注記事項の欄に記 載する方法等が考えられる。この点に関し、自己資本比率については、 現行の証券取引法の通達において既に開示対象となっているが、投資家 の投資判断に資する観点から、社債発行ノンバンクについて統一的な算 定方法等を定める必要があるのではないか、との意見があった。 また、社債発行ノンバンクに対するディスクロージャーの義務づけに ついては、本来、証券取引法で行うべきであるが、同法の運用の実態等 に鑑み、その実効性をより確保する観点から監督当局が関与することに 一定の意義が認められること等から、当面、暫定的に、貸金業規制法等 の他の法令で手当てすることでもよいのではないか、との意見があった この他、ディスクロージャーの適正さを確保するためには、会計監査 人による財務諸表監査も重要である。ノンバンクの社債発行にあたって は、会計監査人による深度ある監査が求められる。

(3)リスク管理体制、財産的基礎 ノンバンクが社債の発行により不特定かつ多数の者から資金を調達し 融資業務を行うこととなれば、ノンバンクの金融仲介機能は、より銀行 等の金融仲介機能に類似したものとなる。それゆえ、金融サービスとし てのノンバンクの業務の特性等を考慮しつつ、投資家によるモニターを サポートする観点から、最低限の人的構成(リスク管理体制)や財産的 基礎(自己資本等)を求めることが考えられる。 (注)証券会社、証券投資信託委託会社、抵当証券業者、商品投資販売業者 等、不特定かつ多数の者を対象に金融仲介を行ったり、不特定かつ多数 の者から資金を集めて融資ないし投資を行う業者については、法令上、 事業を適確に遂行するに足りる人的構成及び財産的基礎等が求められて いる。

(4)悪質業者による詐欺的行為の排除 現行の商法、証券取引法の下では、社債管理会社及び引受証券会社を 活用せず、更に、証券取引法のディスクロージャーも行わずに、投資家 に直接社債を売ることも可能であるが、悪質業者がこれを悪用して詐欺 的行為を働く余地があると考えられる。また、悪質業者が商法上の社債 ではない社債まがい商品等を売りつける等の詐欺的行為も考えられる。 ノンバンクの社債発行を自由化する場合には、解禁に乗じた悪質業者の 詐欺的行為を阻止するための方策についても検討する必要があるが、上 記3)のような最低限の人的構成や財産的基礎を求めることは、悪質業者 の参入の阻止にも効果があるものと考えられる。

6.ノンバンクのCPの発行 CP(コマーシャル・ペーパー)の法律的性格については、手形法上 の約束手形として構成されており、従って、社債に関する出資法第2条 第3項の規定は、CPには適用されない。しかし、CPは、経済実態的 には、短期社債とも言うべきものであることから、ノンバンクがCPを 発行する場合には、同項の趣旨を踏まえ、通達により、発行代わり金を 貸付資金に充てない等の規制が行われている。 ノンバンクのCP発行に係るこうした制約については、社債発行を自 由化するのであれば、同様に廃止すべきものと考える。その際、5.で 検討した社債に関するルールは、短期社債としての性格を有するCPに も適用すべきものと考えられる。 なお、現行のCPの商品性についてみると、イ)発行者は一定以上の 格付を取得した者、ロ)購入者は機関投資家等、ハ)発行単位は1億円 以上等の限定があり、こうした商品性を前提とする限り、社債に関する 出資法第2条第3項の改正を待たずに廃止してもよいのではないか、と の意見もあった。他方、ノンバンクのCP発行を自由化する場合には、 運用・調達の期間ギャップを考慮し、流動性補完の観点からバックアッ プラインの設定が必要との意見があった。この点については、バックア ップライン設定の必要性は発行(会社)毎に格付機関及び市場の判断に 委ねるべきものであり、ノンバンク固有の問題として捉えるべきではな いとの意見もあった。

7.債権流動化のための法制度の整備      近年、リスクの分散化や資産の圧縮による財務体質の改善等の観点か ら、金融機関やノンバンクを中心に、市場からの資金調達の一手法とし て、債権の流動化のニーズが高まっている。そのなかで、ノンバンクの 債権流動化については、出資法第2条第3項の趣旨を踏まえ、調達した 資金を貸付資金に充てられないという制約がある。この点については、 ノンバンクの社債発行を自由化するのであれば、債権流動化に係るこの ような制約についても、CPに係る取扱いと同様、廃止されるべきもの と考える。 なお、債権流動化については、一般に、対抗要件の具備の手続が煩雑 であることが指摘されているが、現在、法務省を中心に、その簡素化に 向けた検討が行われており、その検討結果が期待される。 今後、債権流動化に関するこのような制約を取り除いていくことは、 債権流動化の進展に資するものであるが、一層の進展を促す観点から、 債権の譲受者としての特別目的会社(SPC)の仕組作りや投資家保 護のあり方等について検討する必要がある。その際、リース・クレジッ ト債権に関し特別に規定している「特定債権等に係る事業の規制に関す る法律」の全面的見直しも含め、総合的に検討する必要がある。

[次に進む] はじめに I.ノンバンクの業務運営のあり方、資金調達の多様化等 II.消費者信用を巡る諸問題 〇「ノンバンクに関する懇談会」報告書の概要