消費者金融業界に激震が襲っている。
最高裁判所は消費者保護の見地から、いわゆる「みなし弁済」規定の実質的無効を宣言し、
これを受け、全国各地から大量の過払金返還請求が起こされている。
このため日本公認会計士協会は消費者金融各社に、過払金返還請求に備え、利息返還損失引当金
を計上することを求め、消費者金融大手5社だけでも、1兆7235億円の損失引当金を積まざるを得ず、
当期利益は軒並み大幅な赤字決算となっている(07年3月期)。
思い起こせば昭和57年(1982年)、第1次サラ金パニック時において、厳しい取立・高金利・無選別
過剰融資と社会的批判を浴びながら、表面的に取り繕うだけで何ら本質的な改善をすることなく、
多数の被害者を創出しながら業績を拡大し続け、遂にこの地まで来てしまったことへの代償が
今現出しているといえるのである。
昭和58年(1983年)制定の「貸金業等の規制に関する法律」が取立規制等で一定の効果をあげたことを
認めるのは吝かではないが、一方、最高裁判所が利息制限法違反の金利は民法上無効と明確に認定していたのにもかかわらず、
それに抵触する「みなし弁済規定」を同法律に導入したことは、大きな禍根となって大量の多重債務者
を産みだす結果となってしまった。
新たな課題−民事再生申立と過払金返還請求
新自由主義に大きく舵を取った日本の経済界は、弱肉強食の度合いをますます強め、企業の合併・再編が
大規模且つ頻繁に実施され、寡占化が進行している。
消費者金融業界も例外ではなく、最終的には
大手5社しか残らないであろうというのが、現在の状況認識である。
大手消費者金融は中小消費者金融を
買収・営業譲渡・債権譲渡等で次々と傘下に入れている。ところが、ここで問題が生じた。
買収側あるいは譲受人側が過払金返還請求の当事者となる例が増加してきたのである。
消費者金融の保有する債権が、法43条の適用が認められれば、債権となり適用がなければ過払金返還請求の
対象債務となるという表裏一体の極めて特殊な債権であるからである。この特殊性から買収側がリスクを正確に把握できず
手をこまねいているというのが現状である。
東証1部上場会社クレディアは平成19年9月14日東京地裁に民事再生手続の申立をした。
債権の届出期間は2ヶ月。その間に届出のない過払金債権は効力を失う。また届出をした債権も
現在のところ、再生債権として扱われる予定であり、予定どおりであれば大幅なカットは免れない。
そして再生計画が認可されれ、計画通り遂行されれば、クレディアは過払金債務を全く保有しない
会社となるのである。現今極めて重要なリスク負担が回避されているのであるから
スポンサーとなる会社は続出するであろう。
更に問題なのが、もしクレディアの民事再生手続が、過払金返還請求権の失効あるいは大幅カットで
終了するのであれば、事業譲渡等視野に入れている中小消費者金融が民事再生手続の申立をして
過払金返還請求権の失効を図るという懸念も充分にあるのである。
したがってクレディアの問題は、一つの消費者金融の倒産という問題ばかりではなく、過払金返還請求権
保持者保護のためにも、なんとしても頑張らなければならない問題なのである。
さらに、理論的にも、法律実務家が明確に認識しておかなければならない事項がある。
高度に発達した金融工学は、消費者金融の資金調達方法にも変貌をもたらした。
従来型の債権譲渡担保等からストラクチャードファイナンス(Structured Finance-仕組み金融)が大きな比重
を占めている。この資金調達方法は、貸金債権を信託譲渡し、同時に優先受益権をSPC(特定目的会社)をとおして
投資家に証券として売却するかたちでなされる。この証券をABS(資産担保証券)という。
このファイナンスが信託を介在させていることから、信託の最も大きな特徴である「倒産隔離」機能が生じる。
これは、委託者・受託者が倒産した場合でも、信託財産は影響を受けないというものである。クレディアの場合は
、同社が委託者、新生信託銀行が受託者となっているのであるから、クレディアの倒産は信託財産に対して何の影響もないということになる。
したがって過払金返還債権の対象となる債権が信託譲渡されていれば、クレディアの倒産にもかかわらず、
なお有効に行使し得るという結論となろう。これらは全く未知の分野であり、判例はもちろん文献もない。
したがってわれわれ法律実務家は、金融工学の理解を深め精緻な理論を構築し消費者保護の先例を
築きあげるべき責任も負っているのである。
過払金は正当な所有者に
消費者金融各社は、過払金返還請求に備えて、多額の貸倒引当金を積んでおり、大手5社のみでも1兆7235億円
に達していることは前述した。これら引当金は当然に正当な所有者に返還されるべきものであり、
そのための闘いは、まだ始まったばかりである。われわれが法律実務家が現在まで取り戻した過払金の額など
この引当金に比べれば微々たるものであることを、われわれは自覚し確認しなければならない。
このページに寄ってくださったすべての方々、被害者の方、被害者の親族の方、消費
者問題を扱っている方々そして法律に携わっている方々が、一日も早く被害者救済に立
ち上がり、一人でも多くの被害者の方々が、人間らしく生きる権利を取り戻し、普通の
笑顔に立ち戻っていく姿を見ることのできる一助としてこのページが活用されれば、私に
とって、これにまさる喜びはない。