この講演録は、司法書士がこれからクレサラ問題に関わろうとする時期のものです。
私自身全国ほぼ回ってクレサラ問題の話をさせてもらいましたが、テープ起こしをされているものが少なく (それは私の話が雑駁で話があちこちに飛ぶためでしょう)登壇者としての発言などを除けば、ほとんど唯一のものです。
内容自体は当然たいしたものではないのですが、バブル景気が崩壊し、破産申立件数が4万件台で推移した 平成5年、6年の頃の司法書士会ならびに社会情勢の雰囲気を理解する一助になればと思い掲載いたします。

はじめに

 昨年静岡でクレ・サラ被害者交流集会が開催され、私ども静岡会の司法書士が、 交流集会でははじめて分科会を担当しました。
「弁護士以外による被害者救済方法」という形で行ったわけでございますけれども、 その分科会にあわせて、(宣伝するわけではないんですが)「借金整理の対処法」という本 を出版しました。この本は、幸いにもある程度好評の内に迎えられまして、また静岡の司法書士が、 クレ・サラ問題を非常に熱心にやっているということで、マスコミ等も、ものめずらしさもあってか、 接触することが多くなりました。
これらの相乗作用ともうしますか、クレ・サラ問題とくに破産問題ですが、 相談・処理が非常に多くなって、またこのクレ・サラ問題は一度足を突っ込みますとなかなか抜けること ができないという特徴がありまして、今、毎日これで四苦八苦しているのが現状でございます。

クレ・サラ問題の若干の分析

今日、受付の方に週刊誌の記事のコピーを配っていただきました。
この記事の内容がどのようなものかといいますと、今まで「朝日新聞」等の新聞は、サラ金の 広告を自主規制していて掲載しなかったわけですが、今年、平成6年の1月1日付けで、サラ金 各社の大広告を掲載した。
三大新聞だけではなく、日経もサラ金の広告を掲載した。バブル崩壊 で広告収入が激減したためであろうと予測しておりますが、理由は何であれ、サラ金側の全面勝利で あるという形で、この週刊誌は結んでおります。
もちろん、サラ金側の全面勝利ということを、私たちが認めるわけではありませんが、ただ、 非常に力をつけ強大になってきた、ということは認めざるを得ないと思います。
先日発表されました、無担保小口融資ー平たくいえばサラ金のことですがーを主業務とする会社の 経常利益は倍増となっておりました。この不景気の時に、経常利益が倍増というのは、すばらしいと いうより、異常であるというべきであります。
みなさんご存じのとおり、サラ金は規模の大小に より多少の相違はありますが、30%程度の高金利で顧客に貸し出します。彼らとて、手元に資金 があるわけではなく、大手銀行あるいは保険会社からお金を借りてくるのですが、この低金利の 時代ですので、自分の借りる金利は非常に低く、一方貸し出す金利は30%という高金利を維持 している。この金利差が膨大な利益を生み出していると同時に、やはりサラ金で借りざるを得ない 人が増大していると考えられます。
サラ金で借りざるを得ない人、しかもその行為を繰り返して多重債務者になってしまった人を一般 にー呼び方が適切であるかどうかはわかりませんがー破産予備軍と呼ぶことがあります。
「日経」は面白いことに、自己破産の問題をよく記事にしております。もちろん新聞の性格上、 自己破産は社会問題である、だから多重債務者を救済しなくてはならない、というサイドから書い ているわけではありませんが、他の新聞と比較してよく記事が出るのは確かであります。
その「日経」の記事を読みますと、「個人破産微増」と書いてある。この見出しだけ見れば、 クレ・サラ問題も終息に向かうのかと思われますが、実は全く違います。破産の申立件数は 平成3年が約2万件、平成4年は約4万件で、一挙に倍増しました。そして平成5年は、まだ正確 な数字は出ておりませんが前年度とほぼ同じペースであろうと思われます。新聞が微増といったのは、 対前年比の伸び率のことを言っているのです。平成3年から4年にかけての伸び率はほぼ 100%ですので、それと比較すれば伸び率は微増したと言うわけです。
とにかく破産件数は 非常に高い水準で維持されております。何も問題は解決していないし、解決の糸口がみえている わけでもないのです。
俗に破産予備軍100万人と言われています。この数字の根拠は何かと言いますと、大手サラ金 各社では、だいたい150万口の口座をもっているそうです。もちろん口座を持っている人が全て 破産予備軍と言うわけではないのですが、現在はご存じのとおり信販会社等もいろいろなカードを 発行しておりまして、そのカードには、キャッシング機能が付いております。ですから一般的に考 えれば、お金を借りる順序としては、まず銀行であろうし、次に信販会社、そしてサラ金は、 金利から考えても、やはりその次にくるところであろうと思います。そうしますと、サラ金各社が 150万の口座数をもっていると言うことは、やはり100万人程度の破産予備軍はいるのではな いかと我々は予測しております。
ここで少し言っておかなければならないと思いますが、「お金を借りたら返すのが当たり前だ」と いう意見があります。この素朴な見解はもちろん正しいのですが「借りたものを返すのは当たり前だ。 多重債務者を被害者というのは間違いだ」という意見になりますと、全てが正しいと言い切れません。
もちろん一面正しいところもありますが、クレ・サラ問題をやってきて、いろいろな債務者の方を見て おりますと、必ずしもそうとばかりは言えないんです。目の前に困窮している多重債務者がいる。 そしてその向こうに、大きな高笑いをしている業者というか企業がはっきり見えます。
ずっとやっていますとそこまで見えてきます。そこまで認識してはじめて、目の前にいる債務者が 被害者である、とそういう認識ができると思います。
私のもとにクレ・サラ問題で相談にくる方のほとんどは金融の知識がない。金利が30% であるとはどういうことかという知識はほとんどない。
実例をもうしますと、私のところにある 方が相談にきました。半年前に信販会社に3万円返済した。残債は53万円あった。それから一度 も払っていない。ところが今度きた請求書を見ると請求額が60万円近くになっている。 これはなぜですかと私のところに聞くわけです。彼の頭の中では借金53万円から3万円を返済した のであるから、残りは50万円だということしかないわけです。金利・損害金ということは全然 頭に入っていない。その方は正直言って字もあまり書けません、自分の名前は書けますが、私の書 いたものを写すだけでも長い時間がかかりました。それで、ほとんど金融知識のないその方が28 歳のときベンツを購入しました。購入したのは、平成3年です。平成3年というのは思い出すとわ かるのですが、バブルが崩壊した年です。バブル崩壊で高級外車が全然売れなくなった年です。
彼は車が趣味なのですが、当時既にサラ金にかなりの借金があり、とてもベンツを買うような状況 ではなかったわけですが、ともかく購入してしまった。彼はその前はクラウンに乗っていたらしい のですが、その車のローンが月々4万円ほどだった。ベンツというのは500万円位するそうです。 大手の外車専門の販売店が、彼にその車の購入を勧める。当然彼にはお金がありませんから、 その旨を伝える。そうしたらお金の心配はしなくてもいいと言い、信販会社でローンを組んでくれた。 信販会社も、事故になる確率が非常に高い融資であることはわかっていますから、このローンに対して、 不動産を持っている彼の叔父さんを保証人としています。ではなぜ彼は500万円ものローンを 設定して購入したかです。
私もそれが非常に疑問でしたので、彼に尋ねました。彼の返事は 月々の支払が以前のクラウンに乗っていたときの4万円の返済と同じであったから購入したとい う返事でした。
返済の総額がいくらであるかではなく、月々の返済がいくらか、彼にはそれ しか頭にないわけです。今流行のリボ払いもそうですが、月々いくら払うかだけを気にしている のです。それでその方は半年くらいベンツに乗っていましたが、すぐ返済につまりはじめてしまった。 その支払にはボーナス払いが入っていたからです。
彼はボーナスをもらうような勤めではなかった ので、ボーナスなどない。ないのはわかっていながらボーナス払いを入れないと月々の返済が高く なる、高くなれば彼は購入できないからボーナス払いを入れる。そういう構図です。したがってそ こで当然行き詰まるわけです。
そこで信販会社は、ベンツを200万円くらいで売って、 後の残債は、保証をした叔父さんから全額回収した。そうしますと、高級外車を売った会社は、 当然信販会社から代金500万円を手にしている。信販会社も今言ったように叔父さんから残債 は回収している。しかも、金利が26%です。オートローンは普通5・6%の金利ですから、26% というのは異常な高金利です。しかもわずか1年ほどで全額回収してしまう。そうすると高級外車 販売会社、信販会社これは丸儲けです。
このような実態をみると、我々から言わせれば、 明らかに狙い撃ちしているとしか思えない。借りた方が悪いなどと言う簡単な議論で解決できるもの ではなく、大きな力が、充分な知識を持っていない人を(言葉は変ですが)罠にはめるという意思 が感じられる、と思わざるを得ないところがたくさんあります。
確かに借りる方にも、 いろいろな問題があります。私はそれを否定するものではありませんが、それ以上に今述べたよう な形で企業として業績を伸ばしていく、それを許しておくわけにはいかないということです。
そしてもう一つ最近感じていることを述べてみようと思います。それはマスコミのことです。 どうも最近マスコミはクレ・サラ関係の報道が少なくなったのではないかと感じられるのです。 確かに「クレ・サラ110番」をやると、ちょっと載ります。「クレ・サラ110番実施」 ぐらいは掲載されますが、より根本的な記事が見当たらない。ある意味では目新しさがないから かもしれません。しかし社会問題としては随分深刻な問題であります。
昭和57年の第1次サラ金パニックの当時は、追い込みというか、取立が今よりもっと厳しかったも のですから、多数の自殺者が出た。
今回のクレ・サラでは自殺者の数は減少していますが、先ほど の週刊誌の記事にもありましたように、本質的な悲惨さという実態は何も変わっておりません。 しかも悲惨な目にあう人々が、昭和57年当時とは比較にならないほど多数出ているということです。
先ほどもうしましたとおり、平成3年から4年で倍、平成5年は前年と同水準ということですから、 社会問題として厳然として目の前にあるわけですから、マスコミが書かなくなったから、問題はない のではなく、このように社会的にどうみてもおかしいという現実、状況があるんだということを 我々の頭の中にたたき込んでおく必要があると思います。

司法書士による救済手続と市民の認知

さて次に実際の救済活動をどのような形で行っているかお話ししてみたいと思います。
私は静岡ですので、静岡のことしかわかりませんが、私のところでは一応若い司法書士は破産手 続はできると言っても差し支えないかと思います。
どのようにして、このような体制ができたかと 申しますと、当然ですが研修です。3年程前から自前で研修会を何度も開きました。これは弁護士の 先生の力も借りず独力で一所懸命やりました。講義をやり、法令、通達の勉強をやり、実際の電話 の応対の仕方、チェック項目の作成とおよそ考えられることは全部やったつもりです。
そうやって一所懸命やっているのを、地元のNHKが非常に興味を示しまして、2ケ月間ぐらい、 我々をずっと取材しておりました。アナウンサーが美人だと言うこともありまして、私どもは益々熱 が入った(笑)
結果的には15分程度放映されただけでしたが、このような形で若い司法書士が 破産問題に取り組んでいるというのは、NHKにとっても、新鮮な驚きであったと思います。 またそれと同時にラジオでも放送されました。それはわたしが30分ずっと喋っていました。 その放送時間が、朝の7時から7時半でしたか7時半から8時でしたか忘れましたが、私はラジオを 聴きませんので、そんな早朝では、聞く人はいないんじゃないかと思っていたところ、NHKの人に 言わせると、その時間帯はゴールデンタイムだそうです。みなさんが出勤途中の車の中で聞くわけで す。それで私がこの悪声でベラベラ喋っていたのですが、結構聞いている人がいらして、かなりの反 響がありました。
また私のところの会は、地元の新聞に毎週月曜日に法律ワンポイントアドバイス という欄を持っておりまして、600字程度の記事ですが、そこでクレ・サラ問題を何度も書きました。
このような形で司法書士が破産手続をやると言うことが、市民の間で段々と認知されるように なってきました。
破産が法律の問題であることは市民みんながわかっております。ただ今までは 弁護士のところにしか相談にいってなかった。ところが破産を司法書士もやるということが市民にも わかってきて相談が静岡の場合は増えてきたと思っています。
先日、クレ・サラ被害者交流集会を静岡でやって、いろいろと考えることがありました。
クレ・サラ問題を弁護士も一所懸命やっている。ただ先ほどから申し上げているとおり、非常に数が 多いものですから、弁護士だけでは手が回らないのが現状です。
ではそれを補完するのは誰か、 救済に手をさしのべるのは誰か、本来は司法書士ということでなくてはならないのですが、なかなか そうはいかない。大阪では司法書士が中心になって被害者の会ができておりますが、被害者の会 もまだ全国でできているわけではありません。
そこで多重債務者の方はどこに相談に行くかと申しますと、市民相談室とか行政相談室とかに相談 にいきます。ところがそこで解決されればいいのですけれど、ほとんどは「あっしょうがないね、 これは弁護士さんのところへ行きなさい」「これは裁判所へ行きなさい」ぐらいの対応しかできてい ないようです。
多重債務者が一人で弁護士のところへいけるのなら何も相談にもきません。 初めから弁護士のところに行っております。ですから何の解決にもなっていないのが実情であろうと 思われます。
そこで司法書士が相談にのれたら、あるいは相談員の方が司法書士も破産をやるん だときちんと認識していてくれたら随分と様子が変わっていると思います。これは我々も反省しなく てはならない。まだまだ努力不足であろうと思います。
昭和57年に第1次サラ金パニックがあり大きな社会問題となりました。そのときも我々司法書士 はサラ金問題をやらなくてはいけないと決意しました。しかし残念ながら継続して現在までやって いるのは一部の司法書士のみであります。会員全体が継続することができずにここまできてしまった、 という過去があります。
今回のクレ・サラ問題も本質的には何等変わることがありません。 今現在いろいろな場所で、いろいろな形で、この問題を正面からとらえようとする動き、我々司法書士 の問題でもあると真剣に対処しようとしている動向があることは知っています。
しかし昭和57年当時もそうだった。
ですからこの動きが継続できるかどうか、我々の中に定着 するかどうかは、正に今からの問題であります。
正直いいましてクレ・サラ被害者の救済というのは楽なものではありません。
時間も静岡の場合ですと免責確定まで1年半ほどかかります。
また以前のサラ金パニック時との明確 な相違は、破産申立中の取立訴訟があります。
例の最高裁の判例がでて、その以後中堅・大手の別な く取立訴訟をしてきます。破産申立中の債務者は、ほとんどが働きに出ておりますから、訴訟書類が 受け取れない。郵便局は保管している旨のはがきを置いていくのですが、書類を取りに行くのが大幅 に遅れることがある。
その後、我々のところにその書類を持ってくるのですが、提出期日まで後2日、 3日程度の余裕しかないということがよくあります。
1件や2件の破産手続をしているうちはまだ良 いのですが、それを何10件とやっていると、ほとんどその仕事に振り回されてしまうこともあります。 しかし、ここで踏み止まるか、あるいは踏み止まれないのかは、本当に大きな違いです。

被害者・弁護士からの要望

さて、皆さんのもとに「司法書士によるクレ・サラ被害者救済活動の活発化を求める決議」という 文書をお配りしてあります。
先ほどより話に出ている静岡での被害者交流集会を行ったとき、主催 者であるクレ・サラ対協が、司法書士を励ます意味で出した決議文であります。
この文書は大阪の 木村達也先生が静岡での会議の時に持参いたしましてはじめて我々は目にしました。
正直言いまして、 当初私を含めて、同僚の司法書士もこの文書に違和感がありました。
当初は文面に「司法書士に感謝し」とか「活動に敬意を表し」とか、いろいろ書いてありまして、 私どもとしては、法律家として当たり前のことをしているという認識しかありませんでしたので、 このような文言が何かそぐわない感じが致しました。
そこで、このような文言を削ってもらってで きた文書が今お手元にある決議文です。
この決議文をみてもわかりますよう、クレ・サラ活動をし ている弁護士の先生方、また被害者の皆さんも、弁護士だけでは、あまりにも数が多く、もうこの 問題は解決できないと認識していると思いますし、我々の活動に対する期待の大きさを感じます。
実は、この決議文には裏話がありまして、なぜこういう決議文を出したか、もちろん素直に読んで 文面どおり、被害者の方々が我々の活動の活発化を期待しているのはそのとおりでありますが、 さらに深慮遠謀がありまして、司法書士が、このクレ・サラ問題の被害者救済をてがけるに際し、 弁護士法違反の問題を非常に気にする。
気にするあまり腰が引けてしまうこともあるのではないか、 というのがこの会に出た弁護士の先生方の認識ではなかったかと思います。
ですから被害者の会で こういう形式で、司法書士に対して、クレ・サラをもっとやってくれ、と要望している、被害者の 会には当然たくさんの弁護士さんがいらっしゃいますから、こういう形で、クレ・サラ問題に携わ る人々すべてが要望しているのだとわかれば、もっと腰を据えて、弁護士法違反とかを考えずにや れるのではないかと、非常に心優しい(笑)裏話があるわけでございます。

破産手続と業者側の反応

さて我々が破産手続をやりますと、当然業者側が反発してきます。
例えば私が通知を出します 「誰々の破産の手続をしました云々。つきましては今後こちらに電話してください」という内容ですが、 当初サラ金側は、ほとんどすべてのところが、弁護士法違反だ、非弁だといってきました。
この反応もやはり我々が破産をやると言うことを知らないから起きた反応だと思います。そのような ときどのように対応するか、対応の方法は2つあると思います。
ギャーギャーとやられたら、こちらもギャーギャーと怒鳴り返す(笑)というのが1つ。
もう1つは怒鳴られても馬耳東風で「あ、そうですか、ところでお宅の行為は貸金業規制法21条、 大蔵省通達の何とか違反」(笑)とそればかり言っている。
その内向こうも段々嫌になってくる ようです。脅しても脅しがいがない、怒鳴れば怒鳴り返されるのでは、わざわざ意気込んで電話をか けてきても効果がない。(笑)
静岡では当初このような形でやってきましたが、最近では業者側もがたがた言ってくることがなく なったようです。業者側も司法書士が破産をやるということを現在では知っておりますし、非弁だと 怒鳴り込んでも引き下がりませんので、文句を言ってこなくなったと思っています。これもまた司法 書士が破産をやることが知れ渡った成果であろう考えています。

消費者問題における弁護士と司法書士の協調

そこで次に移ります。実をいうと今日最もお話をしたかったのは、この3番目であります。
ただこれをお話しするのを躊躇したことも事実であります。
レジメの3番目は「消費者問題に おける弁護士と司法書士の協調」となっておりますが、職域の問題であるといっても良いかもしれません。
先ほどから何度もお話をしておりますが、司法書士側は弁護士法の問題あるいは司法書士 法2条、10条の問題を気にします。私が躊躇したのは、クレ・サラ問題が非常に苦労が多く、 報酬の面でも問題があり、そこにさらに弁護士法でやられてはかなわんと腰が引けてしまう人が出 てしまうのではないかと思ったからです。
しかしながら事件の経過とともに、非常によい方向 に進展してきて、結果的には弁護士と司法書士の協調という理想的な形に進んできておりますので お話をしようと決心した次第であります。
我々のところにAさんという方がいます。
Aさんは司法書士を開業して3、4年の若い人ですが、 もしかしたら登記の仕事がなくて暇なのかもしれませんが(笑)このクレ・サラ問題を熱心にやってお ります。
その彼がクレ・サラがらみで債務不存在確認の訴を地元の簡裁に出して、15万円程度の残債が あるが、もう利息制限法に引き直せば過払いとなっている。 詳しい内容は、本人に聞かなければわかりませんが、ともかく訴を出して、当初相手方は当然社員 が対応しますので、訳の分からない答弁になったり、期日の度に答弁がコロコロ変わったり大変 だったようですが、段々佳境に入ってきた。
現在クレ・サラ問題は多数の判例が出ておりますし、 法律雑誌あるいは消費者六法にも紹介されておりますので、判例をしっかり勉強すれば理論構成は できるのですが、Aさんの準備書面も、これら判例にそったすばらしいものであったと思います。
それでいよいよ佳境に入ってきて、Aさんとも「そろそろ判決だね」と話しておりましたら、 そこで業者側からいきなり私どもの会の会長宛に、上申書という文書が届きました。その内容は どのようなものであるかといいますと、Aという司法書士のやっている行為はおかしい、弁護士法 とはいいませんでしたが「司法書士法2条、10条違反の可能性がある。」「毎回傍聴にきて 指導している」(このような事実はない)「書面の内容も訳の分からない理屈を述べて、 こちらは対応に苦慮している」(先ほど申しましたとおり判例、法令をふまえ精微に理論展開を しています)そして末尾に「よく調査をして懲戒の事由があったら懲戒云々」と結ばれていた。 大意このような上申書が、業者側弁護士からきたわけです。
私は正直に言いまして、これは非常に卑劣な方法だと思います。
なぜならこの債務不存在の訴訟には全然関係ないことだからです。 弁護士法違反の問題もありませんし、司法書士法違反の問題もありません。
司法書士が本当に真摯に、圧倒的な労力を使って、訴訟を継続しているおり、しかもそろそろ判決が 出そうなところで、本来関係のない司法書士会に、間接的に懲戒の申立をにおわせることを上申し てくる、これは非常に腹の立つ話でした。
しかし実は眼目はここからで、Aさんは昨年被害者交流集会の事務局をやっておりましたので、 クレ・サラ対協等のたくさんの弁護士を知っております。
それでまずこの情報が大阪の木村 先生のところに入りました。木村先生は「これはけしからん」ということで、すぐAさんの事務所に きてくれまして「これは徹底的にやる。司法書士が一所懸命クレ・サラをやっているのに水を差す ことになるし、これは極めて遺憾だ」ということで、すぐ反応してくれました。
弁護士の先生方は、こういうことに対しての反応は本当に早い。そしてわずか訴額15万円の簡裁 事件に木村先生、宇都宮先生、昨日講演していただいた今先生、九州の長尾先生、静岡の先生の名前 も挙げなければ怒られますから(笑)藤森先生・森下先生という本当に錚々たる先生方が、 あっという間に21人この訴訟の原告側についてくださった。
そしてさらにクレ・サラ対協では甲斐先生の名前で、同じく私のところ会長宛に上申書を出してくれ て「一切の問題はない」旨を書いてくれた。 また、Aさんも面識はないそうですが、東京の長谷川先生からもAさんに「全く腹立たしい限りで す。クレ・サラ問題を一所懸命やっている人間に対する妨害としか考えられない」旨の内容の ファックスが届きました。
これら一連の弁護士の先生方の動きは、正に感動的でした。
会長への上申書というような形で、しかも懲戒云々の話ですから、一般的には腰が引けてしまう と思います。その点Aさんは元気な方ですからいいんですが、一所懸命クレ・サラ問題をやって、 真摯な対応をすれば、弁護士・司法書士の協調というのは自然な形で、うまくできるという一つの 見本のようにも思えました。
我々が司法書士法違反・弁護士法違反の行為をしてはいけないことは当たり前のことですが、 何度も繰り返すように、真摯な形でこの問題に対処しておれば、いたずらに弁護士法違反であるか否か と気を使ってばかりいるのではなく、目に前の被害者の救済を第1に考えて行動してほしいと思います。
非弁だ非弁だと自分たちで枠をはめて、腰が引けるような状況がもしあるようなら、 それは改めなければならないと思います。
とにかく21人の先生方(別に人数の問題ではないのですが)が、真摯にこの問題に取り組んでいる 司法書士に対して、このような形で、援助・協調してくれたのは、両会にいろいろな職域問題がある中、 この問題に関しては、非常に幸福な状況が形成されたと思っております。

裁判事務と消費者問題

さて、時間が大幅に経過しておりますので、次に移ります。よく本人訴訟は、司法書士が背後 から援助して遂行されていると豪語するむきがありますが、実態は大きく乖離しており、ほとんど が信販会社の印刷された訴状で行われいるのであります。それで、このクレ・サラ問題と裁判事務 との関連を少しお話ししてみようと思います。
このクレ・サラをやっておりますと、地域差はあるようですが、破産申立後の取立訴訟への対応 ということが大きな問題となってきます。
民事の裁判は、何もクレ・サラでの取立訴訟での対応が すべてではもちろんないわけではありますが、裁判事務も登記事務と同様ある程度の慣れというのは 必要でありまして、簡単な事件なら慣れればある程度登記事務と同様に処理していくこともできます。
なぜ、破産の申立中に取立訴訟が提起されるようになったかと申しますと、債務名義をとって、 免責の確定前に、有効な強制執行ができるという例の最高裁の判例があるからであります。
破産手続中の債務者あるいは破産者は、すぐに同時廃止になることからもわかりますよう、 財産と呼べるものは何も持っていない人たちです。
このような時代ですから、テレビぐらいはあり ましょう、もしかしたらレンジ、ビデオぐらいもあるかもしれません。しかしこれらを対象に 動産執行しても、ほとんど債権の回収にはなりません。ならないけれども、破産の申立が一応なされ、 ホッとしているところに執行される。そうすると債務者は精神的にまいるわけです。
例えば、あるサラ金に20万円の債務がある。支払不能状態になってしまい、やむを得ず破産 の申立をした。追い込みも終わって、これから更生のための努力をしようとしている時、執行がくる。 債務者は何回も何回もこられるのが精神的に耐えられない状態になっておりますので、そのサラ金 の20万円をどこからか用立ててきて支払ってしまうのです。サラ金はそれを狙っているのです。 別に現在債務者が持っている財産を狙っているのではありません。
また、強制執行では、さらに困るのは、債務者の給料の差押です。ご存知のように4分の1まで とれますので、これが非常に困ります。
雇用主が、クレ・サラ問題に理解のある人ならいいんです が、すべてがそうとは限りません。したがって被害者の更生のために、破産の申立をしていながら、 この給料の差押がきたために職を失うということが現実問題としてある。
これでは債権者の公平という破産制度の趣旨にも反しますし、何よりも破産者の更生が図れません。
これらの債権は当然破産債権ですので、免責の確定後は執行できない債権です。
したがって何としても、これらの執行を阻止しなくてはならない。そのためには、できるだけ 債務名義の取得を遅らせなければなりません。
これら取立訴訟は、先ほども申したとおり印刷された文書できます。完全に定型化されており ますので、個々の事情には対応できないことがある。そしてかなりいい加減な、恣意的な解釈をして いるのがたくさんあります。
例えば4年前サラ金から借りて、ずっと返済している。訴訟で すから当然利息制限法に引き直して計算しますが、それだと過払いになるので、やれみなし 弁済であるとか、あるいは4年前の1番最初の返済期日に1日遅れたから、以後すべて損害金 で計算するとか無茶苦茶のものがある。
そこでこちらとしましては、これら相手方の主張を 「はい」と認めるわけにはいきませんので、期限の利益喪失約款はどこにあるんだとか、 それは期限の利益の再度付与だとか判例を調べていろいろ反論するわけです。
さらにはこちらから、 利息制限法に引き直した金利計算をし、債務はこれだけだとやるのですが、すべてがうまくいくわけ ではありません。簡裁がいきなり当事者尋問をやるということで、そのまま判決を出されてしまう こともあります。しかしできるだけ債務名義を取得されるのを延ばして、債務者の更生を妨げる 要因は排除してやらなければいけない。
そうしませんと、一方で破産手続が順調に推移したとし ても、片方で会社がクビになってしまうという事態にもなりかねません。
そこで、取立訴訟にも対応するわけですが、クレ・サラ問題をやっておりますと、今お話ししたよ うに論理必然的に裁判事務もできるようになるということができます。
もちろんクレ・サラ問題はこのためにやっているのでは決してありませんが、結果的にそうなるという ことです。
さて私の話の最後に研修の必要性につき話をしなくてはなりません。静岡でクレ・サラを現在の ようにやっているのも、最初は研修です。
現在全国各地でこの研修をしているようですが、私は2、3しか出たことがありませんので、 どのような形で行われているかよく知りません。
ただクレ・サラ問題の研修は、研修をやって、 それ自体で満足していてはいけない。
研修をやったらすぐ第一歩を踏み出す、目の前に困窮して いる人がいる。その後ろに高笑いをしている業者がいるということです。
目の前にいる人たちを助けるためには、自分たち内部で、研修をしている、破産の勉強を一所 懸命やっている、それだけではいけないのです。
ある程度の知識ができたらまず被害者救済に 立ち上がる。そこでまた研修をする。そしてまたやる。
そういう形でこのクレ・サラの研修は やるべきである、そう思っております。
 ところで、皆さんご存知のように、貸金業の規制等に関する法律、いわゆるサラ金規制法が昭和 58年にできました。
それ以前の非常に厳しく悪質な取立、その恐怖で一家心中あるいは夜逃げ をせざるを得ないような状況に追い込まれた、その反省のもとに、この法律が成立したわけですが、 その中に大蔵省銀行局通達というのがございます。
その通達の中に、債務処理に関する権限を弁 護士に委任し、その旨の通知を受けた後は、取立行為をしてはいけないというのが取立行為の規制の 中にあります。
 一部の若い人たちが「そこに司法書士が入っていないのはけしからん」という人がいますが、 それは明らかに間違いです。昭和57年当時、先程も言いましたが、我々がこの問題に関してそれだ けの実績を持っていなかった。ただそれだけです。
だからこの通達の中に弁護士だけしか入らな かった。
だが、この問題に対して実績を積み重ねれば、次回の変更時には我々司法書士の名も入るかもし れない。その入るか入らないかは、正に今からの問題です。
これからの司法書士はクレ・サラをやらなくてはいけない、と声高に叫んでも実績を積まなければ 話にもなりません。
ですから、我々司法書士が一緒になって真摯に努力し、実績を積み重ね、 この次の通達には弁護士・司法書士と連記されるよう、ぜひ皆さんに頑張ってほしいと思います。
そして、クレ・サラ問題は金の問題であると同時に命の問題です。私のところは免責が出るま で1年半ほどかかります。
一番最初に事務所にきたときは、この人は大丈夫だろうかと思うような 精気のない顔をしていた。顔はどす黒かった。
その後我々が一応防波堤になって取立行為を規制し、 通常の生活ができるようになる。そして免責の申立をする。免責が確定する。
そこまでいきますと、もう一番最初の顔とは別人です。
顔が変わる。本当に安堵したというか、救われたというか、そういうふうに顔まで変わる。
法律家として「そういう顔」をみる喜びを皆さんにも味わってほしいと思います。ありがとうございました。(拍手)