法律新聞1998.8.14論壇

ノンバンク関連の金融法制

遅れる消費者保護

 本年五月一九日、政府は閣議で「金融業者の貸付業務のための社債発行等に関する法律案」(通称・ノンバンク社債発行法案)を決定、同日国会に提出した。同法案の骨子は、「@貸金業者が貸付資金に充てることを目的として、社債の発行により不特定かつ多数の者から資金を調達することを禁止している出資法第二条第三項の撤廃。A社債を発行するノンバンクは内閣総理大臣への登録を義務付けるとともに、登録に必要な要件を定める」というものである。
同法案は未だ成立には至っていないが、次期臨時国会で成立の見通しである。

「社債発行法案」の狙い

 右法案の立法趣旨が、現在進行中である金融ビックバンの一環であることは論を 待たないところであるが、より詳細には次のような説明がなされている。
現在ノンバンクは出資法の規定により、貸付資金に充てることを目的として、 社債の発行により不特定かつ多数の者から資金を調達することが禁止されている (出資法第二条第三項)。したがって現行法においてノンバンクに社債の発行が 許されるのは、設備投資目的のためにのみ限定されている。
この条項の趣旨は立法当時「貸金業者が社債の発行により不特定かつ多数の者か ら貸付資金を受け入れるときは、その業務が銀行業務的性質を帯びることとなり、 銀行等のように法令の厳重な規制を受けない貸金業者にこれを認めることは著し い弊害を生ずるため」と説明された。
しかしながら現在においては、社債市場における商法、証券取引法等による市場 ルール、投資家保護のための諸制度が整備されたため、一般大衆の保護の観点から いっても同項により禁止する意義は失われつつあると考えられるとし、さらに金融 仲介業務を銀行等に限定する意義も、企業部門の資金不足も解消され、今日では金 融仲介の多チャンネル化が求められている状況にあることから同項の禁止の趣旨自 体が形骸化してきているとしている。
右法案の成立によって、現在消費者金融会社・流通系カード会社が営業目的の資 金につき、銀行等から融資を受ける間接金融に頼っていたものが、市場から直接資 金調達をすることが可能となり、消費者金融等ノンバンクにとっては極めて有利な 法制定であるといえ、これら企業は現在よりもさらに潤沢な資金を、低コストで手 に入れることができることになる。

統一的な保護法の必要性

 ところで法案が右のように企業側に有利な性格を有するものである以上、一方の 契約当事者となる消費者に対する保護政策が必須であるところ、しかもそれら保護 制度は、金融改革に先行遅くとも並行して行われなければならないものであるが、 現状は全くの逆転現象でノンバンクの資金調達の多様化のみ現実化し、消費者保護 の施策は置き去りにされたままである。
必要とされる消費者保護政策は多岐にわたる。ここでは紙幅の関係で、そのすべ てに言及することも、また詳論することもできないが、代表的なもののみ抽出して 論じることとする。
まず統一的な消費者信用保護法の制定の必要性である。
 確かに現行においても、借手保護等の観点から、業者に行為規制を課す法律とし て貸金業規制法および割賦販売法があるが、これら法律が各企業の業態や信用供与 の形態に着目して規制する方式をとっているため、借手にとっては同一の経済行為 であるのにもかかわらず、適用される法律によって効果が違うというアンバランス が生じたりして、一般の消費者にとって極めてわかりづらいものとなっている。
   そこで消費者信用全体に対する統一的な規制が必要となるのであるが(しかも本 来は市場の一層の拡大、取引形態の多様化が進展する以前に)現実化していない。
 同一の見地から過剰与信防止のための信用情報機関相互間の残高情報等のホワイ ト情報の交流についても、その前提として不正利用や情報漏洩を処罰する個人信用 情報の保護のための制度が不可欠であり、この厳格な制度を抜きにしての情報交流 は余りにも危険が大きすぎて到底容認できないが、昨今ホワイト情報の交流の必要 性は頻繁にアナウンスされている。

「対等」の下の「自己責任」

 また経済界、マスコミ等で「自己責任の下に」というフレーズが盛んに用いられ るが、この言葉を用いる場合には、少なくとも経済主体が対等でなければならない ということを念頭に置く必要がある。
 現在資金提供者と消費者が対等であるとは到底いえない。「対等」とするために は消費者に対し徹底的な情報のディスクロージャーが必要不可欠であるが、さらに アメリカにおいて発展してきたレンダー・ライアビリティー(融資者責任)の思想 を根底にした消費者保護をはかる必要がある。
 この法理論は、種々の法律論・特別法上の責任を組み合わせた理論であるが、融 資過程全般における融資者の説明義務、情報開示義務、返済能力を超える融資の禁 止義務等極めて多岐にわたり、事業により利潤を取得するものは、これらの義務を 負担して初めて公平な契約を締結できるとするもので、これらが遵守されることを 前提とした「自己責任」であることを明記しておく必要がある。
多重債務者増大の最大要因の一つと以前から指摘されていた消費者金融等の利息 制限法違反の金利についても、その根拠条文である貸金業規制法四三条のみなし弁 済の規定が、そのまま存置されているのは極めて不合理であるといえる。いわゆる 金融ビックバンの一環として資金調達の多様化が認められたのにもかかわらず、貸 金業規制法の適用を受ける業者のみが利息制限法違反の高金利で営業できるという 規定は、ビックバンの根本思想である「公平」概念と完全に相反する規定だからで ある。
右の外にも多重債務防止のためのカウンセリング設置の必要性等、消費者保護の 見地から必要な施策は多数あるにもかかわらず、現行の金融制度改革は、消費者の 保護という重要な命題を置き去りにしたまま、加速度をもって進行しているといわ ざるをえないのである。