詳解 消費者破産の実務(全訂増補版)書 評


市民と法 NO6(2000年12月)
    静岡大学人文学部法学科助教授 安達栄司

 本書は、消費者破産に関する最先端の今日的情報を提供することを目的と
して一九九八年に出版され、好評をもって多くの実務家に活用されてきた旧
版を大幅に増補改訂したものである(約七〇頁増)。この間の消費者破産を
めぐる状況の変化は著しい。立法措置として、いわゆる特定調停法(本年二
月施行)、民事再生法(本年四月施行)、民事法律扶助法(本年一〇月施行)
による裁判書類作成業務への扶助の拡大、さらに個人債務者の民事再生手続
創設を含む民事再生法改正案の国会への提出(本年一〇月)がある。貸金業
者側に関しても、商工ローン事件・日掛金融業問題をきっかけに貸金業規制
法、利息制限法、出資法が改正された。本書は、これらの一連の立法動向お
よび社会経済状況の変化を取り入れると同時に、個人事業者や小規模法人の
経営者も考慮して、旧版になかった法人の自己破産の相談にも対応できるよ
う改訂された。
 基本構想は維持されている。第一章「消費者信用の現状と問題点」では、
消費者金融会社が、一九六〇年頃サラ金として誕生し、その後の一九七七年
の第一次サラ金パニック(サラ金地獄)とバブル経済崩壊後の第二次クレ・
サラ金パニックを経て、現在、毎年過去最高益を更新までの状況が概観され
ている。著者によれば、株式公開の他、タレソトやキャラクターを頻用して
ソフトなイメージ戦略を展開している消費者金融は、社会的強者・成功者と
しての責任をまったく果たしていない。他方で、不況の下で、融資先確保の
ために、あるいは株式公開可能な好況業者として、消費者金融業に「なりふ
りかまわぬ姿勢で」すり寄った生保・銀行・証券会社にも厳しい批判の目が
向けられる。それ以上に、金融行政・対策立法の不備が指摘されている。特
に一九九九年四月に成立したノソバンク社債発行法によって、消費者金融業
が、資金調達面で銀行等との垣根が低くなったにもかかわらず、貸金業規制
法四三条の「見なし弁済」規定の恩恵を受け続けることは矛盾であり、公平
なルールの下での自由競争を阻害する。このようなクレ・サラ多重債務者問
題に対する本質的理解は、静岡を本拠に、司法書士として被害者救済活動に
大きな役割を果たしてこられた二人の著者の「マインド」であり、本書を一
貫する。
 情熱的な第一章とは対照的に、本書の本体である第二章「多重債務の整理
方法」から第九章「法人破産」の中で提示されている消費者破産事件の「実
務」の詳解は、冷静、周到、網羅、詳細であり、クレ・サラ問題に対する立
場のいかんを問わず、参照価値が非常に高い。中でも、多数の書式に加えて、
二九本に及ぶ破産宣告申立書の記載例は、多重債務者の実態をリアルに提供
する。この部分は、社会的経験に乏しい学生・理論家にとって貴重な教材に
もなる。もちろん、現に多重債務問題の渦中にある人または相談を受けた人
にとっては、即座に利用可能な参考資料である。
本書の守備範囲は広く、多重債務の任意整理、債務弁済調停協定、特定調
停、債務不存在等の確認訴訟、自己破産申立、免責、違法取立行為への対策
といった債務者の積極的な行動から、取立訴訟、督促手続、少額訴訟、強制
執行の阻止といった受動的立場での対応策にまで及ぶ。多数の裁判例の引用
とともに、著者が蓄積してきたノウハウが、随所で惜しみなく開示されてい
る。
 熱き理念に裏打ちされ、実務マニュアルの域を超えて最新の実務を伝える
本書は、旧版と同様に消費者破産事件のバイブルとして参照され、多くの実
務家・理論家に利用されるべき書物である。