みなし弁済の否認について

最近「みなし弁済」の適用を否定する重要な判例が続けざまにでております。 その判例を紹介するとともに、「みなし弁済」の要件等を再確認したいと思い ます。

みなし弁済とは

皆さんご存じのように、利息制限法という法律があって、金銭を目的とする 消費貸借上の利息は、次のように定められており、この利率を超過した部分は 無効とされています。

元本が10万円未満の場合  年20%
元本が10万円以上100万円未満の場合  年18%
元本が100万円以上の場合  年15%

にもかかわらず、サラ金各社の金利は年30%前後ですから、利息制限法に違 反しています。したがって超過した部分は本来無効な金利で支払い義務はあり ません。
ところが一方に、貸金業の規制等に関する法律(以下貸金業規制法といいます) という法律があって、その43条で貸金業者との利息の契約に基づいて、債務 者が、利息として任意に支払った額が上記の利息制限法に定められた金利を超 える場合であっても、一定の書類を債務者に交付していれば有効な利息の支払 いとみなすことを定めて、例外をもうけています。
そこでサラ金業者は、利息制限法違反の金利を「みなし弁済」により有効である という主張をすることによって、批判をかわし高金利を維持したまま営業を継続 しているのです。
しかしながら、根本はあくまで利息制限法に定められた金利を超過する部分は無 効と考えるべきで、この「みなし弁済」が適用されるのは、極めて例外的なもの と考えなければいけません。
ところが日本にはよくあることですが、例外が原則となり、数々の悲劇を生む大 きな要因となっています。
では貸金業規制法はどのように考えているか考察してみましょう。
貸金業規制法も、この「みなし弁済」が適用される場合として厳格な要件を定め ています。このことからも法の趣旨も、あくまでも利息制限法が原則であり例外 的に貸金業規制法の趣旨に則り、厳格に法を遵守する優良企業に限って恩恵的に 認める趣旨であろうと思って間違いありません。
次に「みなし弁済」適用の要件をみてみましょう。

みなし弁済適用の要件

貸金業規制法は43条でみなし弁済が適用される要件として次の5項目をあげて おります。これら項目のすべてを厳格にクリヤーしなくては、みなし弁済を適用 して利息制限法違反の金利を有効とすることはできません。

1.債権者が貸金業登録業者であること。
2.契約の際、貸金業規制法17条の要件を充足する書面を交付していること。
3.弁済の際、貸金業規制法18条の要件を充足する受取証書を直ちに交付して   いること。
4.債務者が約定金利による利息を利息としての認識で支払ったこと。
5.債務者が約定金利による利息を任意に支払ったこと。

これだけでは何のことかわかりませんので、各項目ごとの説明を加えます。
1.の債権者が貸金業登録業者であること。は説明の必要はなかろうと思いますが、貸金業登録証明書等で確認してください。
2.貸金業規制法17条の要件を充足する書類とは次の事項の記載された書面をいいます。
貸金業者の商号、名称または氏名及び住所・契約年月日・貸付の金額・貸付の利率・返済の方式・返済期間及び返済回数・賠償額の予定(違約金も含む)に関する定めがあるときは、その内容・その他大蔵省令で定める事項
  となっています。
これらの記載事項がすべて充足されて初めて法17条書面といえるわけですから、例えば貸金業者の登録番号の記載漏れがあっただけでも、17条書   面を交付したことにはならず、また年利で記載すべき利率を日歩で記載してあった場合も同様です(京都地判昭和63.8.19)
 問題なのは、現在大手、中小を問わず使用されている、いわゆる「包括契約書」を締結し、個々の金銭貸付に際して業者が発行する「領収書」を併せて17条書面とする扱いが認められるか否かです。
 この問題に対しては従来、学者・弁護士から批判があったにもかかわらず実務においては、17条書面として肯定され、運用されてきましたが、平成8年10月23日名古屋高等裁判所上告審判決は、現在サラ金等が一般に使用するこれら書面は法の要求する17条書面にあたらないと明確に否定し、したがって法43条の適用を否認する画期的判決が出されました。
 判決は「法17条の趣旨からすれば、業者が借り主に対し各貸付契約に際し発行する契約書面は、借り主が自己の債務内容を正確に認識し、弁済計画の参考としうるよう一義的、具体的、明確なものでなくてはならず」とし、「本件では右記載の程度を満たしておらず、借り主が交付をうけた契約書面の記載を具体的に時間をかけて計算せねば理解できないもので、」法所定の書面の交付はなかったとしています。
 この業者は武富士ですが、サラ金最大手でもあり、他の業者が使用している書面も大同小異ですので、この上告審判決により現在実際に使用されている包括契約書は17条書面ではないことになり、ほとんどすべての場合で、法43条の規定の適用を否認できるということになりました。(判決要旨を後掲しておきます)
3.貸金業規制法18条の要件を充足する書類とは次の事項の記載された書面をいいます。
貸金業者の商号、名称または氏名及び住所・契約年月日・貸付の金額・受領金額及びその利息、賠償額の予定に基づく賠償金または元本への充当額 受領年月日・その他大蔵省令で定める事項
 なお貸金業規制法18条2項は、預金または貯金の口座に対する払い込み等の方法による弁済の場合は受取証書を交付しなくてもよい旨規定していますが、例え、これらの方法で弁済をしたとしても、法43条の適用を受けるためには貸金業者は受取証書の交付が必要であることには変わりありませんので注意してください。
 また同様に契約書により、貸金業者と債務者とが受取証書を交付しないことを合意している書面がありますが、合意があったとしても法43条の適用とは無関係で、あくまでも受取証書の交付が必要であることは同じです。
4.債務者が約定金利による利息を利息としての認識で支払ったこと。
5.債務者が約定金利による利息を任意に支払ったこと。
この4.5の規定は利息を「利息としての認識」し且つ「任意」で支払ったとするものですが、双方とも要件が曖昧で業者側は、「返済予定表を交付した」「受取の度受取証を交付した」から、利息として認識し、任意に支払ったと主張してくるのですが、平成9年東京地裁は、現金自動預入払出機(ATM)を使って業者に借金を返済した場合、店頭でのやりとりならば利用者がその場で利息と元金の返済に充てられる金額を知ることができ、支払いを拒絶する余地もあるが「ところがATMの場合、明細書が発行された段階ではすでに返済を取りやめることはできない」とし、したがって、「ATM利用の場合、負担する利息がいくらかの認識がないのだから、任意の支払いだったとは認められず、利息制限法の規定を超過する分の利息や遅延損害金への充当は無効」として、法43条の適用を否定しました。
この判決の全文をまだ入手していないので、より詳細に伝えられないのは残念ですが、先の17条書面の判決と同じく画期的な判決で、この判断が上級審でも維持されれば、現在サラ金等が通常行っている高利の利息を「利息の認識」「任意性」からも否定することができます。

みなし弁済適用の否認

 以上述べてきたように、法43条のみなし弁済規定の適用は、あらゆる角度から否定することができ、この問題に携わった法律家の輝かしい勝利であると同時にこのクレ・サラ問題の根本的解決にも寄与できるものであると思われますので、徹底的に闘い利息制限法以外の金利は一切認められない態度を堅持する事ができるところまできたと思われます。

  債務者、法律家を問わず我々には強力な武器が用意されました。

名古屋高等裁判所上告審平成8年10月23日判決要旨

貸金業の規制等に関する法律は、貸金業者の事業に対し必要な規制を行う ことにより、その業務の適正な運営を確保し、資金需要者等の利益を図る ための措置として、貸金業者は貸付にかかる契約を締結したときは、遅滞 なく、貸付の利率、賠償額の予定に関する定めの内容等、法一七条一項各 号に掲げる事項についてその契約の内容を明らかにする書面をその相手方 に交付しなければならないものとし(法一七条一項)、さらにその貸付の 契約に基づく債権の全部または一部について弁済をうけたときは、その都 度直ちに受領金額及びその利息、賠償額の予定に基づく賠償金または元本 への充当等、法一八条一項各号に掲げる事項を記載した書面を当該弁済を したものに交付しなければならないものとして(法一八条一項)、債務者 が貸付契約の内容またはこれに基づく支払の充当関係が不明確であること などによって不利益を被ることのないよう貸金業者に契約書面及び受取証 書の交付を義務づける反面、その義務が遵守された場合には、債務者が利 息または賠償として任意に支払った金銭の額が利息制限法一条一項または 四条一項に定める利息または賠償額の予定の制限額を超えるときにおいて も、これを有効な利息または賠償金の債務の弁済とみなすこととしている (法四三条一項、三項)
したがってこのような法の趣旨からすると契約書面の記載事項は、債務者 が自己の債務の内容を正確に認識し、弁済計画の参考としうる程度の一義 的、具体的、明確なものでなければならないと解される。そして貸付限度 額その他貸付の具体的条件を定めて反復継続して貸付を行う旨の包括的な 融資契約を締結した上、これに基づき個々の貸付を行う契約形態において 包括的貸付契約及び個別的貸付契約の際にそれぞれ貸付契約に関する書面 を交付するときは、少なくとも両書面を併せてみるときそれが法一七条の 要件を充足した書面である必要があるというべきである。
そこで、本件についてみるに、本件包括契約書では、前記一2の記載があ るところ、包括契約を締結した上で、それに基づいて個々の貸付が実行さ れるという契約形態が許容される以上、その記載内容はある程度包括的・ 抽象的になることは避けられないから、本件包括契約書の記載自体は法1 7条1項の趣旨に反するものとは直ちにいえないと解される。
そこで前記一3の個々の貸付契約の際に、被上告人から上告人に交付した 前記一4の本件領収書につきみるに、同書面には、前記の各記載欄があり 適宜記載されているところ、貸付金額が具体化した個々の貸付契約の段階 において貸金業者から交付すべき契約書面には、右具体的な貸金額に基づ く返済期間及び返済回数、各回の返済期日及び返済金額、弁済の充当関係 などの記載が一義的、具体的、明確に行われる必要があるというべきであ るが、契約書面である本件領収書の前記各記載は、本件包括契約書と併せ てみても到底右の記載の程度を充たしているということはできず、したが って、本件包括契約書及び本件領収書の記載により、債務者である上告人 が、弁済計画を考えるための自己の債務内容を正確に認識することは困難 であるというほかない。
そうすると、結局、被上告人から上告人に対し、法17条1項の要求する 契約書面の交付はなかったものというほかないから、上告人が右貸付契約 に基づいて行った各支払は法43条1項所定の法「17条1項に規定する 書面を交付している場合における支払」とはいえないというべきであって 右各支払のうち利息制限法1条1項、4条1項の定める制限を越える部分 は有効な弁済とはみなされないことになる。