お ま け コーナー

  以下の文章はフィクションです。

実在の団体、人物、また事実とは一切関係ありません。


 

-フィクション- 赤ら顔の、弁護士の不安

[人事院公平審をめぐる、ある弁護士の胸の内]

 

その、赤ら顔の弁護士はいままで、裁判で「判決」に不安を抱くということを知らなかった。

当然である。国家権力たるY政省−いまは庁だが−に仕え、跳ね上がりの愚かな職員達の、些細な苦情に対して権力の「正当」さを、ただ述べればよいのだから。

この事案も、単なる異動である。

すでに10年前から言われている人事交流に対して、なにをこの者たちは血迷っているのか。

『まぁ、こういう輩がいるから、私の懐も潤うんだが…』

−支部の書記長だそうだが、Y政のご指名だからしかたないだろ。むろん組合の上部は確認済みだから、間違ってもZ逓との人事院「闘争」になることはない。あれははっきり言って、わし達Y政お抱え弁護士のプライドが傷つけられる。わしが進めるシナリオに横槍が入る。Z逓とY政と政治家あたりが入り込んで手打ちをし、その方向を強引に進まねばならん。これじゃ、弁護士としての舵取りができんではないか。Z逓が見捨てた苦情などお手の物だ。

あとは、相手側の弁護士だなぁ。おなじみの奴なら手の内も知り得ている。しかし、彼もよく「負け」を承知で受けるものだ。弁護士は勝ってなんぼの世界だ。負けが解っていても、勝つ気にさせて半年は汗を流す。報酬もわしよりひと桁少ない。まあ、勉強にはなるだろうが。

―――しばらくして、彼は請求者側の代理人達を見て、ア然!とする ―――

おいおい、相手側は弁護士を立てないんだって。(か〜〜〜〜〜っ!)

わしもずいぶん馬鹿にされたものだ。冗談じゃない。

いや、まてよ。まあ、わしの報酬が減るわけもないし、負けるわけもない。資料も10年前のを使って、あとは関係管理者を一週間ほど缶詰にして、問答を刷り込ませる。シナリオは子わっぱに書かせて、わしは読むだけ。変に頭を突っ込まずに、恥は証人どもに任せて…

これなら酒でも食らってこなせる仕事だ。そうだ、準備は温泉がいいなぁ。

 

赤ら顔で話し言葉もはっきりしないある弁護士。軽い気持ちで公平審に臨んだ。

―――公平審の4日間はシナリオを読んで黙りを続けた赤顔弁護士―――

何という失態。候補者名簿に「組合役職」は記載しないと口裏はあわせたが、ついでにあの総務課長め!備考欄にもなにも書いてなかったとぬかしおった。あれだけ打ち合わせをしておいたのに、「人事交流推薦」の朱書きに目がくらんで、「なにも見ていません!」だと。情けない。

それにしても、請求者が課を移って4年とは知らなかった。郵便課は遍歴があった。同一課5年以下の書記長か。関東か関西あたりでは4年じゃ通らないが、出だしにO村に「東海は3年以上としました」と言わせておいて良かった。でも、最終陳述書の出だしは、この郵便課の遍歴の説明が必要だ。あの左側の公平委員がばかに食いついてきていたからな。これは強引に、請求者はず〜っと南局郵便課同一16年とするしかない。

もう一つ。副局長と総務課長の食い違いもまいった。公平審の場で、あれだけ代理人のS木に突っ込まれたからな。あれは失策だ。言い訳が必要だ。全部、総務課長の責任にするしかない。でも、言い訳を最終陳述でくどくど書く必要があるとは。なんということだ。わしのプライドが許さん。

最終陳述は、出だしにバアン!と「人事交流は当然の業務措置」で始まるはずが、言い訳だらけになるとは。それにしても、まさか鋭い公平委員達に、わしらの手の内を見られたかな?もしや、負けでもしたら、わしの立場はどうなる…

 

―――そんなわけで、不安に駆られた弁護士は酔いも醒めて、言い訳的な最終陳述書を提出した。

それから、半年。一通の配達証明郵便が、労使それぞれに届いた。

何のことはない。弁護士の顔は、ほっとして勝利の美酒にふたたび赤らんだ。

請求者の同一課勤続は3年以上。なになに、「平成11年の課の統合は…」何じゃこれは。

昭和60年8月の南局着任からか、平成11年1月の当時の郵便課から郵便窓口課異動なのか。その争点に、平成11年を持ち出すとはさすがに私も肩すかしを喰らった。そして、一番心配した総務課長の失敗。そんなことなぁ〜んにも触れていない。あの、心配は何だったのか。

それにしても、人事院がこんななら、まだまだわしも現役じゃ。

 

―――以上。事実とはまったく関係ありませんが、みなさんの参考までに ―――