処分者最終陳述書

  掲載に当たって

属人名については伏字としてあります。それ以外は原文のままです。


請求者 ○○○○

処分者清水郵便局長 ○○○○

 

 上記当事者間の貴院平成13年第64号清水郵便局〔転任処分〕審査請求事案について、処分者は、次のとおり最終陳述する。

 

1 答弁書記載の、「第1 請求者の主な経歴」について

 

 請求者は、主な経歴について、本件転任処分が発令された時点で同一課の勤務は、平成9年1月17日静岡南郵便局郵便窓口課からの4年であり、昭和年60年8月15日同局第一郵便課勤務以来ではないと主張し、争っているのでこの点からみて行くことにする。

 

1)郵便課の所掌事務、すなわち担当業務の主なものを挙げると、通常関係、特殊関係、発着関係、小包関係、窓口関係、計画関係等がある。これらの業務が郵便内務事務であり、各郵便局においては、一般的には郵便課の一課が所掌している。

 しかし、上記した業務において、取扱い量が多く、郵便内務事務に従事する職員数が多い等の事情により、各業務ごとの課を設置する場合もある。たとえば、郵便課のほかに郵便窓口課を設置するような場合がこれである。静岡南郵便局は、郵便内務事務の取扱い量も多く、これに従事する職員数も多いことから、本来は一課で担当すべき郵便内務事務を複数の課で担当してきた経緯がある。

 静岡南郵便局の郵便内務事務の担当課の経緯は次のとおりである(乙第30号証)。

 

@ 昭和4978(同局開局)〜昭和54719

 

  郵便課が郵便内務事務を所掌し、係として計画係、通常係、発着係、特殊係、小包係、窓口係があり、それぞれの業務を担当していた。

 

A 昭和54年7月20日〜平成3年9月30日

 

  組織改正により、昭和54年7月20日、郵便課が第一郵便課と第二郵便課となった。

  第一郵便課は、係として計画係、通常係、発着係、第二郵便課は、係としては特殊係、小包係、窓口係があり、それぞれの業務を担当した。

 

B 平成3年10月1日〜平成11年7月15日

 

 組織改正により、平成3年10月1日、第一郵便課と第二郵便課の二課が、郵便課と郵便窓口課の二課となった。

郵便課は、係としては計画係、通常係、特殊係、郵便窓口課は係としては計画係、小包係、窓口係、発着係があり、それぞれの業務を担当した。

 

C 平成11年7月16日〜

 

 組織改正により、平成11年7月16日、郵便課と郵便窓口課が統合され郵便課となった。

 郵便課は、係として計画係、通常係、特殊係、発着係、小包係、窓口係があり、それぞれの業務を担当している。

 

 静岡南郵便局の郵便内務関係については、以上のように3回の組織改正が行われ、それぞれの組織改正において、それぞれの業務を担当する係が移動したもので、この移動も郵便内務事務の範囲の中での移動である。したがって、開局当時の昭和49年7月8日の郵便課と平成11年7月16日以降の郵便課との間には継続性が維持されている。

 請求者は、昭和60年8月15日、第一郵便課に勤務し、以来、郵便内務事務に従事し、本件転任処分の時点で郵便課に勤務していたものであるから、昭和60年8月15日より本件転任処分の発令があった時まで、同一課に勤務していたものとみることができる。

 

2)主任以下の職員の人事異動、すなわち人事交流で、「同一局・同一課」という場合のほかに、「同一局・同一担務」と呼ぶ場合もある。この「同一課」と「同一担務」の違いは、当該局が課制になっているか、なっていないかの相違である。職員数の少ない小さな局では課というものがない場合がある。このような局の各内務事務は、郵便では郵便担当、貯金では貯金担当、保険では保険担当と、各担当が取扱う。課がないのであるから、郵便課、貯金課、保険課が担当するということはあり得ないのである。

 このような場合、郵便内務事務を担当する郵便担当勤務が3年以上となると、「同一担務」3年以上ということになるのである。以上のようなことであるから、「同一担務」3年以上ということは、「同一課」3年以上ということと同じ意味なのである。

 ところが、職員数の多い大きい郵便局で、郵便内務事務を複数の課で担当している場合を想定してみる。そして、窓口業務と通常業務を、それぞれ別のA課とB課が担当していたとする。そして、A課で窓口係として2年勤務し、次いでB課で通常係として勤務し2年経過したとする。この場合、A課とB課は別の課で同一課ではないので、B課勤務を基準としてみるべきであり、したがって「同一課」勤務が3年未満であるとすると、課制のない郵便局の職員との比較において、公平を欠くことになる。

 このような場合は、A課勤務の2年とB課勤務の2年を通算して3年以上としなければならない。

 

第2 答弁書記載の、「第2 本件転任の時期」について

 

 答弁書記載の、「第2 本件転任の時期」については、争いのないところである。

 

3 答弁書記載の、「第3 本件転任を行うに至った経緯及び法令の適用関係」について

 

1 本件転任処分が、適法かつ妥当なものであることについては、郵政局O証人、静岡中央局O証人、静岡南局K証人、同D証人、清水局M各証人の証言、及び静岡南郵便局組織図(平成13年9月2日現在)(乙第1号証の1)、静岡南郵便局組織図(平成13年9月3日現在)(乙第1号証の2)、静岡南郵便局郵便課組織図(平成13年9月2日現在)(乙第2号証の1)、静岡南郵便局郵便課組織図(平成13年9月3日現在)(乙第2号証の2)、清水郵便局組織図(平成13年9月2日現在)(乙第3号証の1)、清水郵便局組織図(平成13年9月3日現在)(乙第3号証の2)、清水郵便局郵便課組織図(平成13年9月2日現在)(乙第4号証の1)、清水郵便局郵便課組織図(平成13年9月3日現在)(乙第4号証の2)、静岡南郵便局郵便課服務表(乙第5号証)、清水郵便局郵便課(内勤)服務表(乙第6号証)、郵政事業庁職務規程(乙第7号証)、郵政事業庁就業規則(乙第8号証)、普通局業務推進ブロック(乙第9号証)、「職務に関する希望調書」の用紙(乙第10号証)、郵政事業活性化計画(平成3年11月)(乙第11号証)、通勤届(平成13年10月4日提出の請求者作成のもの)(乙第12号証の1)、通勤手当特例加算額通勤届(平成13年9月3日提出の請求者作成のもの)(乙第12号証の2)、辞退届(請求者から静岡南郵便局長にあてたもの)(乙第13号証の1)、辞退届(請求者から静岡南郵便局長にあてた書留内容証明郵便物)(乙第13号証の2)、成人病検診受検者の健康指導(通知)(乙第14号証)、請求者の転任前後の給与比較(乙第15号証)、「郵政識場の不当配転と闘う」という見出しのある書面の写真(乙第16号証)、対話記録シート(平成12年12月18日、同13年4月9日、同13年4月18日、同13年5月31日、同13年8月17日にD証人作成)(乙第17号証、乙第18号証、乙第19号証、乙第20号証、乙第21号証)、対話記録シート(平成12年12月15日、同12年12月18日、同13年5月28日、同13年5月28日、同13年5月28日に静岡南局U副課長(当時)作成)(乙第22号証の1、乙第22号証の2、乙第24号証の1、乙第24号証の2、乙第24号証の3)、対話記録シート(平成13年1月3日、同13年6月17日に静岡南局U副課長(当時)作成)(乙第23号証、乙第25号証)、対話記録シート(平成13年8月7日静岡南局M副課長作成)(乙第26号証)、対話記録シート(平成13年4月19日静岡南局A総務課長(当時)作成)(乙第27号証)、対話記録シート(平成13年8月24日K証人作成)(乙第28号証)、郵便関係職員(内務)に係る俸給の調整額・特殊勤務手当等(乙第29号証)、静岡南郵便局郵便内務関係課組織改正の推移(乙第30号証)、古河郵便局配転拒否事件判決(昭和47年3月24日東京高裁。昭和46(ネ)13)(乙第31号証の1)、不利益処分審査請求事案に関する判定(人事院指令13−53)(乙第31号証の2)により、証明十分である。

 なお、以下において、順次、敷衍することにする。

 

2 人事異動が業務上の必要によるものであることについて

 

1)平常3年11月、郵政省は郵政事業の21世紀に向けた明るい未来を展望し、今日激しく変化している諸情勢を踏まえ、事業が当面取り組むべき課題について、事業関係者の認識の一致を図るとともに、これらの課題の実現・解決に果敢に挑戦し、活力があり、また信頼され、一層魅力ある事業を目指し、「郵政事業活性化計画(平成3年11月・郵政省)」を策定した(乙第11号証)。

 すなわち、郵政事業は、国の経営する企業として、公的サービスの提供を通じて公共の福祉を増進するという公共性の発揮を使命としているが、公共性を実現するためにはその土台となる企業性の追求が不可欠であることから、事業の健全経営を推持しつつ、三事業一体経営のもとに効率的経営・企業性を一層高め、経営基盤を固めて公共サービスの提供基盤を充実・拡大していくことが重要であることを明らかにした。

 また、労働集約型の郵政事業としては、中長期の雀宮視点に立ったとき、いかに労働力を確保するか、いかに人材を育成するか、そしていかに効率的な配置・活用をなしうるかという課題こそが、まさに事業に課せられた最大の課題であることに、特に強い問題意識を持つことが必要であるとされ、人材確保・人材育成の観点から積極的な検討と具体的な実効ある施策の推進が表明されたのである。

 そして、人材確保・人材育成の具体的な実効ある施策の柱として、「マンパワーの高揚」を掲げて、その中で「人材の弾力的配置」を取り上げ、その具体的施策の一つとして同一局所・同一担務(同一課)に長期間勤務する一般職員の人事交流を積極的に推進していくことになった。

 

2)東海郵政局においては、上記趣旨に則っとり、平成6年から職員の能力開発、人材育成および職場の活性化を図るため、一般職員すなわち主任以下の職員の人事交流に取り組んできた。この結果、主任以下の職員の人事交流を実施する意義について職員の理解が深まってきたことから、「施策として推進する」という位置づけから、通常の人事異動として位置づけることにして、従来呼んでいた「人事交流」という呼び方を、平成11年から「人事異動」と呼ぶようになった(郵政局O証人の証言)。

 上記(1)で述べたように、人事異動は人材育成そして一般職員の効率的配置・活用を目的として実施されるものである。すなわち業務上の必要から実施されるものである。

 本件転任処分は、こうした目的で実施された人事異動なのである。

 

3 一般職員の人事異動の事務手続きについて

 

 次に、本件転任処分の事務手続きをみる前に、一般職員の人事異動の手続きの仕組みをみてみることにする。

 

 (1) 候補者

  人事異動は、一般職員すなわち主任以下の職員の全てが対象者となるものではない。複数の職場を体験することによって視野を広め、知識経験を豊かなものにするということから、一定の職場(同一課)を一定の期間勤務することが必要である。こうしたことから東海郵政局管内においては、同一局・同一課3年以上の職員を人事異動の対象者すなわち候補者としている。そして、候補者のうち、5年以上の職員については重点的に実施していくものとした(郵政局O証人の証言)。

 

2)通勤時間

  次は、通勤時間の点であるが、現在居住している所から1時間30分前後で通勤できる郵便局とした。これは、人事異動を行うに当たっての異動可能の地域の問題である。後述するが、人事異動は普通局業務推進ブロック(乙第9号証)の幹事局副局長が人事異動案を作成しており、また同じブロック内での人事異動が多いが、主任以下の職員の人事異動は同一ブロック内でしか出来ないということではない。ブロックを異にした人事異動であっても、通勤時問が1時間30分前後以内であったなら可能である。

 

3)人事異動の事務手続きについて

 

 ア 人事異動案は幹事局副局長が作成する 

 普通局の場合、主任以下の職員の任命権者は郵便局長である(乙第7号証)。したがって、人事異動案は本来は各郵便局長がそれぞれ連絡をして人選し、作成すべきものである。しかしながら普通局業務推進ブロック(乙第9号証)の別表でも明らかなように、東海郵政局管内では146局の郵便局がある(平成12年9月18日現在)。各ブロック毎にみても7局から14局の多きに達している。このような状況の中で、3年以上の職員、5年以上の職員がどの局に何名いるか。この人数を把握することだけでも大変である。そのうえ、A局では郵便外務関係で候補者が1名いることが判っても、B局でも候補者が1名いるものの貯金内務関係の職員であったとしたら、A・B両局問の人事異動は困難である。勤務年数のほかに、職員が従事している職種も考慮しなければならないのである。そのほかにも、各局毎に職員構成(例えば年齢構成)の相違もある。これらの総ての要件を考慮しながら、各郵便局長が、それぞれ人事異動案を作成するということは、事実上不可能である。こうしたことから郵政局の指導により、ブロック内の各局長は、人事異動案の作成を幹事局副局長に依頼している。これは、東海郵政局で、主任以下の職員の人事交流(人事異動)に取り組むことになった平成6年から引き続いて行われているものである。

 次に、具体的な手続きについてみてみることにする。

 

イ 幹事局副局長に候補者名簿と対話シートを提出

@ 毎年1月から2月頃にかけての時期に、ブロック内の各局長は幹事局副局長に同一局・同一課に3年以上勤務する全職員の資料を記載した「候補者名簿」と対話シートを提出する。幹事局副局長は提出を受けた「候補者名簿」と対話記録シートを資料として人妻異動案を作成する。

 このように「候補者名簿」は各局でそれぞれ作成するものであるが、作成に当たっての資料は、毎年11月に職員が提出する「職務に関する希望調書」(乙第10号証)と、管理者が職員と行った対話についての対話シートである。対話は、人事異動の意義を職員に理解してもらい、職員の意識づけが目的である。

 候補者名簿の記載事項の項目は、住所、氏名、年齢、所属する課、内務・外務の別、現織在任の期間、自局在職の期間、経験局数、業務経験、通勤時間、最寄りの駅、健康状況、家族の状況、所属する組織(組合)、転勤希望の有無、その他といった項目である(静岡中央局O証人の証言)。

 なお、人事異動は、管内一斉に発令する統一発令日の発令は4月と9月、年2回行われる。その他、続一発令日の発令とは別に、ブロック単位の発令がある。「候補者名簿」は1月から2月頃にかけての時期の提出が1回だけである。したがって、9月の続一発令日の発令のため、新たに「候補者名簿」を提出するということはない。1月から2月頃にかけての時期に提出した「候補者名簿」に変更等の必要が生じたときは、その都度、各局長はそのことを幹事局副局長に連絡し、「候補者名簿」の現行化で対処することになる(静岡中央局O証人の証言)。対話シートについては、1月から2月頃にかけての時期以後、すなわち最初に提出した以後、対話して作成した対話シートを幹事局副局長が要請した時期に提出する。

 

A 転出可能な職員数の把握

 次の手続きは、幹事局副局長が、ブロック内の各局長に対し、どの課に所属する職員を、何名転出が可能かを問い合わせ、寄せられた回答により、転出可能な職員数とその職員の所属する課を把握する。そして、人事異動案の作成事務に従事する。この場合、幹事局副局長からブロック内の各局長に、どの課に所属する職員を、何名転出させることにしたいというように、一方的に指示することはしない。なんとなれば、主任以下の職員の任命権者は職員の所属する郵便局の局長であり、幹事局の副局長ではないからである。さらに、各郵便局には、前述したところであるが、職員構成もそれぞれ異なっており、業務運営上の事情も異なったものがあるからである。

 なお、この幹事局副局長の問い合わせに対して、回答を寄せるブロック内の各局長は、どの課に所属する職員を、何名転出可能か、ということを回答すれば足り、具体的に職員を選んで、その氏名を回答するというものではない。具体的な人選は幹事局副局長が行う(静岡中央局O証人の証言)。

 

B 郵政局の承認

 幹事局副局長は、ブロック内の各局長からの回答により、ブロック全体の転任可能職員数と、それらの職員が所属する課を把握すると、人事異動案の作成事務に入り、具休的な人選に入ることになる。こうした人事異動案の作成事務を行い人事異動案が作成されると、この異動案に挙げられた職員の中で、転任を希望していない職員が含まれていた場合、その希望していない職員についてのみ「候補者名簿」と対話シートを郵政局に挙げて、承認を得ることになっている。これは、幹事局副局長が人事異動案の作成事務の過程において、転任を希望しない職員を人選する際、転任を希望しないことに合理的な理由があるかないか検討し、ないと判断して人選するのであるが、さらに慎重を期する目的で、郵政局が再確認をするのである。再確認をして、転任を希望しないことについて合理的な理由がないと判断したら、郵政局は幹事局副局長に承認の連絡をする。

 

C ブロック内の関係各局長による人事異動案についての了解

 次に幹事局副局長は、ブロック内の関係各局長に、人事異動の対象となった職員の氏名と転出先郵便局名・課名を明示して連絡し、了解を得ることになる。これは、各郵便局はそれぞれ職員構成(たとえば、職員の年齢分布状況)あるいは業務運営上の状況が異なるため、幹事局副局長が連絡してきた職員を転出させることが困難という場合もあるからである。ブロック内の関係各局長の了解を得て、人事異動案は確定することになる。

 なお、転出する職員の連絡の際、転入してくる職員の氏名および所属する郵便局名・課名も合わせて連絡する。受け入れ側の郵便局長は、転入予定の職員については知らない場合がほとんどであるので、受け入れについて特段の意見を言うということはほとんどなく、受け入れているのが実情である。

 

D 発令日・内命日の連絡

 各郵便局長は、年に4月と9月の2回行われる統一発令日については、郵政局からその年の早い時期に知らされているが、幹事局副局長は郵政局から、統一発令が予定通りの月日に行われることの連絡を受けると、ブロック内の関係各局長に内命日、発令日を連絡し、その準備を依頼する。各局長はその年の早い時期に郵政局から知らされているのであるが、さらに連絡する。これは、各局長は続一発令日を知っているものの、万一、忘れてしまって内命をしなかったというような事態を避ける意味もある(静岡中央局O証人の証言)。

 また、人事異動の内容が郵便局間での異動であるので、受け入れ側郵便局長は、転出させる側の郵便局長に転任の発令をすることについて了解を得る。

 

E 内命と発令

 ブロック内の関係各局長は、職員に対し内命日に内命をし、発令日に発令する。

 

4 本件転任処分の事務手続きについて

 

1)以上述べたところが、主任以下の職員の人事異動における事務手続きの流れである。ところで本件転任処分は、年に4月と9月の2回行われる続一発令日に行われた人事異動であるので、次に本件転任処分の事務手続きについてみてみることにする。

 

2)ブロック局長会議においての郵政局の連絡等

 静岡中央郵便局、静岡南郵便局、清水郵便局は共に静岡中ブロックに所属し幹事局は静岡中央郵便局である(乙第9号証)。ブロックでは月1回、定例的に局長会議(ブロック局長会議と呼んでいる)が開催される。

 平成13年1月24日に開催されたブロック局長会議に郵政局職員が出席し、平成13年度の人事異動の取り組みを依頼し、具体的内容は通達を出して連絡することとした。平成13年3月30日、「平成13年度人事異動方針」という名称で通達が出され、その中で、平成13年度の管内の続一発令日を平成13年4月2日(月)と平成13年9月3日(月)の2回であることを明示した(郵政局O証人の証言)。

 

3)幹事局副局長のブロック内局長への依頼とその回答

 平成13年7月18日に開催されたブロック局長会議において、幹事局副局長(静岡中央郵便局副局長)が、各局長に対し、9月の人事異動の人事異動案を作成するため、2月頃までの対話シートは提出されているので、それ以後に作成された対話シートの提出と、転出させることの出来る職員数と所属する課名の連絡を今週中にしてもらいたいと要請した(O証人の証言)。この要請を受けて、静岡南郵便局と清水郵便局は、幹事局副局長に、平成13年7月19日にそれぞれ次のように回答した。

静岡南郵便局(合計4)−郵便課2貯金課内務1第二集配営業課1名。

清水郵便局(合計4)−郵便課1第一集配営業課1第二集配営業課1保険課内務1名。

 なお、上記の2局の回答においては、職員数と所属課名のみの回答である。

 

4)静岡南郵便局の郵便課で2名としたことについて

ア 平成13年7月18日に開催されたブロック局長会議の翌日、すなわち7月19日、郵便課長は総務課長から、9月の人事異動で郵便課では何名出してもらえるか、今日中に返事が欲しいと依頼された。この依頼を受けて、郵便課長は2名にしてもらいたいと答えている。郵便課では、当時(平成13年7月19日現在)、総務主任が6名欠員で、主任以下の職員が6名の過員であった。このように、総務主任が6名欠員となっていることから、郵便課長は総務主任が欲しいと思っていたが、そのために主任以下の職員の過員を解消したいと思っていた。しかし、主任以下の職員を一度に出すと業務に支障が生ずるおそれもあると考えた郵便課長は、6名の過員は徐々に解消することがいいと考え、次の9月の人事異動で出す職員数は2名が適当と判断し、このことを総務課長に回答したのである(D証人の証言)。

 総務課長は、各課長の回答を取りまとめ局長の了承のもとに転出させることのできる職員数として、上記のとおり4名であると幹事局副局長に、同日、回答をしている。合わせて、前回(2月頃)提出以後に作成された対話シートも送付した(K証人の証言)。

 

イ 人事異動に関する対話回数について

 人事異動に関する対話については「平成13年度人事異動方針」(平成13年3月30日の通達)において、適切な人事を行うための体制づくりということで、個別対話の推進について言及されている。すなわち、「個別対話をできる限り多く行い、対話内容を濃くすることにより、職員の意見や希望を背景事情にまで踏み込んで把握するとともに、人事異動が職員の育成、職場の活性化に最も効果のあることの理解を深めさせ、人事異動についての動機付けを図ること。」とされている。また、次のようにも述べられている。「現勤務地に固執する職員に対しても、反発をおそれず積極的に人事異動を推進すること。ただし、人事権を行使する前段として、個別対話を4回程度以上行うことにより、人事異動についての理解を深めさせる努力をしてから、交流を行うこと。」ということである(郵政局O証人の証言)。

 このように、人事異動に関する対話は、同一局・同一課3年以上の職員について、全て同じ回数の対話をするように指導されているのではない。人事異動に関する理解の状況を勘案して対話を行うことが指導されているのである。現勤務地に固執する職員については4回程度以上行うこととされている。したがって、人事異動に関する理解ができている職員と、現勤務地に固執する職員に対する対話回数とでは自ずと回数が違ってくる。また現勤務地に固執する職員であっても、固執の程度のよって対話の回数が違ってくる。

 ところで、請求者は現勤務地に固執する職員である。この事実は、対話記録シート(乙第17号証、乙第18号証、乙第19号証、乙第20号証、乙第21号証、乙第23号証、乙第25号証、乙第26号証、乙第27号証、乙第28号証)により明らかである。また、その固執の程度もきわめて強いことも明らかである。したがって、請求者の場合、10回の対話が行われても、現勤務地に固執する程度からみて、異とするものではない。請求者側は、他の職員と比較して請求者の対話回数が多いことをもって、局側があらかじめ請求者を人事異動の標的に決めて対話をしていたのであろうとの趣旨の非難をしているが、かかる非難は一人よがりの非難であって、説得力に欠けるものである。なんとなれば、対話の回数を問題として取り上げる場合、行われた対話の回数だけを取り上げて、その是非を論じてみても意味のないことだからである。上述した「平成13年度人事異動方針」においても、現勤務地に固執する職員については4回程度以上の対話をするように指導している。「4回程度以上」の対話をするように指導しているのである。すなわち固執する職員に、人事異動の意義を理解してもらうために、「4回程度以上」の対話をするよう指導している。固執する職員も、それぞれの職員によって人事異動の意義に理解を示す程度は異なってくる。固執の程度も異なってくる。こうした職員に合わせて対話が行われるのであり、「個別対話」とも呼ばれている所以である。固執の程度が高くなれば高くなる程に、人事異動の意義を理解してもらうために対話の回数が多くなることは容易に考えられることである。

 請求者側は、行われた対話の回数だけを取り上げて、算術計算的に請求者に対する対話回数と他の職員に対する対話回数を比較しているだけである。ここには、請求者と他の職員の現勤務地に固執する程度の検討が欠落している。現勤務地に固執する程度と対話の回数の多寡が相関関係にあることを忘れた議論であるといえる。

 なお、対話シート(乙第22号証の1および2、乙第24号証の1から3)は、管理者が対話をするために請求者に都合をきいた際の状況である。

 

5)幹事局副局長の人事異動案の作成について

ア 平成13年7月19日に、ブロック内の各局長から転出可能の職員数と職員の所属する課名の回答と、前回提出以後に作成された対話シートの送付を受けて、幹事局副局長は9月の続一発令日のための人事異動案の作成に着手した。この人事異動案は7月下旬に出来上がったが、静岡中ブロックの異動の規模は25名であった(最終的には24名となる)。この25名の中の1人が、請求者である。25名中、現勤務地に固執する職員は請求者1名であった。

 ところで、幹事局副局長は、主任以下の職員の人事異動案を作成して、その中に現勤務地に固執する職員が人選されていた場合、当該職員につき、その「候補者名簿」および対話シートと共に、郵政局に挙げて、承認を得るように、郵政局から指導を受けていた。このため幹事局副局長は、平成13年7月31日に郵政局に請求者を人選したことを連絡し、その「候補者名簿」と対話シートをファクスで送っている。これに対して、翌8月1日に、郵政局から承認する旨の回答があった。

 このように、現勤務地に固執する職員を人選した場合、郵政局に挙げて承認を得ることにしたのは、慎重を期するためである。幹事局副局長は、人事異動案の作成過程において、現勤務地に固執する職員を人選するに際しては、転任を希望しないことにつき合理的な理由があるか否かについて慎重に検討し、合理的理由がないと判断した場合に人選している。しかしながら、慎重を期して、さらに郵政局に挙げ、郵政局においても合理的理由の有無について確認的にみることにしたのである。

 

イ 静岡南郵便局の郵便課から請求者および他1名を人選したことについて

@  請求者を人選したことについて

 

 静岡南郵便局郵便課における勤務が3年以上になる職員は、諦求者を含めて53名である。幹事局副局長は人選するうえでまず年齢を要素として取り上げた。これは、人事異動が人材の育成・職員の能力開発・職場の活性化を目的とする趣旨からして、高年齢になっては人事異動の効果が期待できなくなることを考慮し、効果が期待できる年齢で、かつ、できるだけ高い年齢の職員を人選することが適当と考えたからである。幹事局副局長であるO証人の証言をみてみることにする。

 

《静岡中央局O証人の証言 1》

(処分者代理人)ところで、静岡南郵便局では、郵便課から2名出すという回答だったとのことですが、郵便課では3年以上、同一局・同一課に在任した主任以下の職員は、何名おりましたか。

O証人)53名おりました。

(処分者代理人)では、郵便課についてお聞きしますが、53名の中からどのようにして、人選をしたのですか。

O証人)今回は、S(請求者)さんとIさんの2人を人選したのですが、Iさんの方から説明すると、Iさんは年齢は29才でしたが、泊りが明けて家に帰っても眠ることができず、困っていたということでした。それで、泊りのない局に転任したいと希望がありました。このような事情があったので、島田郵便局は泊りがないので、島田郵便局に転任させることにしました。

(処分者代理人)Sさんの場合は、どのような点をみたのですか。

O証人)まず、年齢を考慮しました。新しい職場で、新しい知識を身につけるためには、年齢があまり高くならないうちに転任することが適切だと思いました。それで、まず、50才以上の職員についてみてみました。

(処分者代理人)50才以上の職員は何人おりましたか。

O証人)3人おりました。そのうち、57才と58才の職員は2名でした。この2人は年齢的にも定年も近いので、転任はやめにしました。残る1人は53才でしたが、この職員は病気のため、泊りができず、日勤しかできない、ということで、転任はやめにしました。

(処分者代理人)50才以上の職員の事情が、転任に適さないということで、次にどうしたのですか。

O証人)次に年齢の高い45才以上の職員をみてみました。45才以上の職員は、Sさんを含めて、4人いました。

(処分者代理人)45才未満の職員は、年齢的にはどのようなものだったのですか。

O証人)42才、41才、40才が各1名で、あとは40才未満でした。

(処分者代理人)では、45才以上の職員の中から、どうしてSさんを人選したのですか。

O証人)「候補者名簿」の備考欄に、Sさんを含めて、4名について、「総務主任候補」と書かれていました。この中で、Sさんは総務主任を希望していないと付記されていました。それで、総務主任候補とされている職員は、総務主任の人事異動で考えればよいと思い、総務主任を希望していないSさんを転任させることにしました。

(処分者代理人)そのほか、どのような点を考慮しましたか。

O証人)その他、健康状態、通勤所要時間、家族の状況といった点をみましたが、転任に支障をきたすものはありませんでした。

 

 O証人は、人事異動案の作成において、請求者を人選した理由を以上のように証言している。

 請求者が総務主任に昇任した場合、総務主任の職責を果たすことのできる資質を備えていることはD証人の証言にある。また、請求者が総務主任に昇任することを希望していないことも、D証人の証言にある。

 ところで、45才以上の4名の職員の候補者名簿の備考欄に「総務主任候補」の記載がなかったとK証人が証言しているので、次にこの点についてみてみることにする。

 

K証人の証言 1》

(請求者代理人)次にですね、備考欄ってありますね。

K証人)はい。

(請求者代理人)Sさんの候補者名簿の備考欄というのは何が書いてありました。

K証人)書いてなかったと思うんですけども…。

(請求者代理人)はい。何も書いてなかった?何にも書いてなかった?

K証人)はい。

 

 K証人は「候補者名簿」について、以上のように証言しているが、同時に次のようにも証言している。

                         l

K証人の証言》

(請求者代理人)いや、大事なことがあるんですよ。備考欄にですね、記す内容というのは、幹事局から特に何らかの指導はありましたか。

K証人)特にありません。

 

 これは、備考欄に記載する内容について、幹事局から、特に何らかの指導があったか否か、という質問なのであるが、この質問に対してK証人は、「特にありません。」と証言している。この証言がK証人の記憶に基づいて行われた証言でなく、質疑応答の流れの中に流されて、その場その場をしのぐために行われた証言であることは明らかなのである。なんとなれば、K証人が静岡南郵便局に総務課長に就任したのは、平成13年7月30日なのである。本件転任処分に係わる「候補者名簿」は前任の総務課長が作成し、幹事長副局長に提出している。K証人は「候補者名簿」作成には一切係っていない。

 したがって、幹事局副局長から「候補者名簿」の作成について、その備考欄に記載する内容について、指導を受ける機会はなかったのである。したがって、「備考欄にですね、記す内容というのは、幹事局から特た何らかの指導はありましたか。」という請求者代理人の質問に対しては、「候補者名簿が作成された時期には、私は名古屋市内の緑郵便局の総務課長で、静岡南郵便局の総務課長ではありませんでしたので、幹事局から備考欄に記載する事項について、特に何らかの指導があったかどうかということは分かりません。」と証言することが、事案を正しく証言することになったはずである。

 それにもかかわらず、「特にありません。」と証言している。これは、質疑応答の流れの中で、流れに流されて冷静さを失い、その記憶力が乱れたままに、質問に答えようとするあまり、その場その場をしのぐためだけの証言になってしまった結果と思われる。

 この事実からも、「候補者名簿」の備考欄にどんなことが記載されていたか、ということについての証言も、その場をしのぐためだけに行われた証言で、事実を伝えるものではないというべきである。

 

A「Iさん」を人選したことについて

 

 「Iさん」を人選した理由および転出先を島田郵便局郵便課としたことの理由は、「静岡中央局O証人の証言1」でみたとおりである。

 

ウ 請求者の転出先を清水郵便局郵便課としたことについて

 

 請求者の転出先を清水郵便局郵便課とした理由については、静岡中央局O証人の証言をみてみることにする。

 

《静岡中央局O証人の証言 2》

(処分者代理人)ところで、そのようにして人選をしたS(請求者)さんを、清水郵便局郵便課に転出させていますが、どうして清水郵便局にしたわけですか。

O証人)静岡南郵便局は大規模局です。Sさんは、大規模局の経験者なので、転出先も大規模局がよいと思いました。ところが、静岡中ブロックで大規模局は静岡中央郵便局、静岡南郵便局、清水郵便局の3局です。しかし、静岡中央郵便局の郵便課では、今回、主任以下の職員の異動がなかったので、清水郵便局に決まったわけです。

 

 幹事局副局長が、請求者の転出先を清水郵便局郵便課に決めた理由は、以上のとおりである。

 

エ 清水郵便局郵便課A主任が転入してくることになったことについて

 静岡南郵便局郵便課から、上述したように請求者と「Iさん」2名が転出することになったが、転入してくる職員は1名の予定であった。その理由は、静岡南郵便局郵便課では、主任以下の職員が過員になっていたからである(静岡中央局O証人の証言)。このようなわけで、転入してくる予定の職員は1名であり、その職員は清水郵便局郵便課のA主任であった。

 A主任を人選した理由は、次のとおりである。O証人の証言をみてみることにする。

 

《静岡中央局O証人の証言 3》

(公平委員長)はい。分かりました。それからね、もう1点だけね。南局から選抜する人を選定、選抜する際にね、どういうことで選抜されましたかということで、さっき証言されましたよね。どんな風に証言された。もう一度、教えて下さい。

O証人)はい。新しい職場で、新しい仕事を、知識をね、身につけるためには、年齢的にあまり高くならない方がいいだろうという、まず、それを考えたわけですね。それで、候補者名簿というのは大体年齢順に書いてあるものですから、まず、50才以上。

(公平委員長)いえいえ。あの、南じゃあなくて、清水の方の。清水の方はどうやってこう選定したか。

O証人)清水の局は、1名ということでしたのでね。それで、年齢的に。

(公平委員長)郵便課はそもそも1名という申請だと。はい。

O証人)それで、年齢的にみて、S(請求者)さんと大体同じくらいの年齢の方が望ましいんじゃないかということで決めました。

 

 A主任を人選した理由は以上のとおりであり、年齢を重視し、請求者と同じくらいの年齢の職員を選んだのである。

 

6)関係局長に対する作成された人事異動案の連絡について

 7月下旬人事異動案が作成され、8月1日郵政局から現勤務地に固執する職員に関する承認の連絡を受けた幹事局副局長は、8月2日にブロック内の関係局長に人事異動案にのった職員の氏名を明示し、当該職員が転出可能か否か照会している。合せて、転入予定の職員の氏名、所属局名・課名も明示して連絡している。

 この幹事局副局長の照会を受けて、静岡南郵便局では、局長の指示を受けた総務課長が関係3課長、すなわち郵便課長、第二集配営業課長、貯金課長に幹事局副局長から氏名を明示して照会のあった職員を転出させても差しつかえないかどうか、意見をきいている。これに対して、関係3課長は転出させても差しつかえないと回答した。関係3課長の回答を局長に報告し、局長の了解を得て、総務課長は、照会を受けた4名の職員を転出させてもよいと幹事局副局長に回答している。また、転入してくる職員を受け入れることについては、異議を述べずにこれを受けれいている。郵便課の関係でいえば、清水郵便局郵便課のA主任が転入してくることについて、この時点では受け入れることに異議は述べていない。

 

7)8月中旬にしたA主任の健康状態の照会

上述のような経緯で、静岡南郵便局郵便課関係の転出・転入予定者が判明した。ところで、静岡南郵便局の郵便課長は、前任が清水郵便局の郵便課長であったため、A主任を知っていた。当時、A主任は病気で病院に通院していた。8月2日に、このA主任が転入してくることを知った郵便課長は、月日もたっているため、A主任の病気が治ったものと思っていた。

 しかし、8月中旬頃、郵便課長はA主任の病気が治ったものと思いながらも、念のため、総務課長にA主任が病気であったことを話している。郵便課長の話を聞いた総務課長は、早速、幹事局副局長に電話してA主任の健康状態を確認した。幹事局副局長も、早速、清水郵便局の総務課長に電話をして、A主任の健康状態を照会した。

 清水郵便局の総務課長は、日常、局内の各職場を巡回し、その際にA主任の執務状況を見ていた。しかし、総務課長の各職場の巡回は日中であり、夜間いわゆる泊りの時間帯ではなかった。このことから、巡回の際に見るA主任は健康そうに見えたため、郵便課長にきくこともせず、このため、A主任が病気で泊りが出来ないことを知らないで、総務課長一人の判断で、幹事局副局長にA主任は健康であると回答をした。幹事局副局長は、この回答を受けて、静岡南郵便局の総務課長にA主任は健康であると回答した(静岡中央局O証人、D証人、K証人、清水局M証人の各証言)。

 

8)内命日・発令日の連絡

 平成13年8月23日、幹事局副局長はブロック内の関係局長に、内命日が8月27日、発令日が9月3日ということで、準備をするように連絡をした。この連絡を受けて、静岡南郵便局長は同局に転入してくる職員が現在所属している郵便局の各郵便局長に、9月3日に静岡南郵便局長名で同局勤務の発令をすることの了解をとっている。また、清水郵便局長も静岡南郵便局長から、9月3日に請求者を清水郵便局長名で清水郵便局郵便課勤務の発令をすることの了解をとっている(K証人、M証人の各証言)。

 

9)内命と発令について

ア 請求者に対する内命は、平成13年8月27日、静岡南郵便局の局長室において、総務課長、郵便課長、総務課課長代理が出席し、同局副局長から行われた。同日、局長が出張で不在のため、副局長が行ったものである。主任以下の職員で転出する職員は請求者を含め4名であるが、内命は1人1人、個別に順次行われた(K証人の証言)。

 

イ 請求者に対する本件転任の発令は、平成13年9月3日、静岡南郵便局の局長室において局長から行われた。9月3日は、主任以下の職員の人事異動とならんで総務主任の人事異動も行われた。同局では総務主任関係の人事異動で5名の職員が転出するので、主任以下の職員で転出する職員4名と合計すると、転出する職員は9名となった。発令は、この9名が全員出席した中で行われた(K証人の証言)。

 

10)清水郵便局のA主任の内命とその取り消しについて

ア 8月中旬頃、幹事局副局長が清水郵便局の総務課長にA主任の健康状態について照会したこと、この照会に対して、総務課長が健康である旨の回答をしたことは前述したところである。このため、A主任を転出させることについては、問題とならなかったのである。

 

イ A主任に対する内命は、平成13年8月27日、清水郵便局の郵便課長が行った(M証人の証言)。

 

ウ 平成13年8月31日夜、静岡南郵便局の郵便課長が清水郵便局の郵便課長に仕事のことで電話をした。仕事の話が終ってから、A主任の話になり、この話の中でA主任が健康上の理由で泊りができないことを知らされた。A主任が泊りができないことを知った静岡南郵便局の郵便課長は、同局が地域区分局で郵便課は泊りが多いことから、泊りのできない職員を受け入れることは困難と判断した。夜も遅くなっていたため、静岡南郵便局の総務課長は帰宅していたので、まず総務課長の自宅に電話して、A主任が健康上の理由で泊りができないことを連絡した。それから清水郵便局の総務課長に電話で、A主任が泊りができないことについて話をした(D証人の証言)。

 このA主任の件は、翌9月1日の午前中、両局の総務課長が幹事局副局長に連絡した。幹事局副局長はA主任は泊りができるようになってから転任を考えることが相当であると判断し、静岡南郵便局長と清水郵便局長の了解を得てA主任の内命を取り消すことにした。

 A主任に対する内命の取り消しは、同日すなわち9月1日、清水郵便局4階の応接室で、同局総務課長がA主任に伝達した。このようにして、A主任の内命は取り消されたが、取り消しが発令日の2日前ということで、時間的にA主任に替わる別の人選は行われなかった。このため、9月3日には、静岡南郵便局の郵便課では2人の職員が転出したが、転入してくる職員はいなかった。そして、平成13年10月18日に、清水郵便局以外の所から職員1名が転入している(静岡中央局O証人の証言)。

 

8)本件転任処分は、以上述べたような事務手続きのもとに行われたものである。

 

5 請求者の主張に対して

 

1)請求者は本件転任処分の不服理由として次のように主張し、争っている。すなわち、次のとおりである。

 

@ 本件転任処分は、意に反した強制配転である。

 

A 本件転任処分によって、次のような不利益を受けた。

(T)区分局手当や調整手当で給与が減り、生活に支障をきたす。

(U)通勤が15分から1時間近くになった。

(V)地域区分局における郵便輸送、研究の自己啓発に努めてきたが、その目的を奪われた。

(W)十二指腸ポリープによる1年の経過観察を言われており、転任が精神的重荷になっている。

 

B 本件転任で静岡南郵便局郵便課は欠員になり、清水郵便局は過員になっている。業務上の必要に基づいていない。

 

C 請求者が全逓静岡南支部書記長として、平成13年度活動方針を支部大会に提案した矢先に出されたものであり、これが静岡南郵便局における職場内の諸問題について当局と話し合いを持ち改善を取り組んできた同支部書記長の請求者を切り捨て職場から排除するため、嫌がらせとして行われたものである。

 請求者は、以上のように主張して争っているので、これらの請求者の主張が、いずれも理由のないものであることを、以下明らかにすることにする。

 

2)@の主張について

 請求者が、かねてから、現勤務地を希望し、転任の意思のないことを郵便課長等に一貫して意思表明をしていたことは、請求者のいうとおりである。したがって、本件転任処分が請求者の同意を得ないで発令されたものであることも、請求者のいうとおりである。しかし、職員の転任は、任命権着が業務上の必要に基づき、職員の職務に対する適性等を考慮して行うものであって、一般的には任命権者の人事上の裁量に委ねられているとされている。本件転任処分が、請求者の意に反した強制配転であるとの主張の理由のないことは、明かである。

 

3)Aの主張について

ア「A−(T)」について

 請求者は、「地域区分局支給区分格差による減額や勤務地による調整手当の減額等により月2万円ほどの減給になります。いま長女が浜松で大学生活をしており仕送りがあり、次女が高校生で学費が嵩むときです。妻の仕事もうまくいかずこの間、祝日はほとんど働いていた身には、少しでも給与が下がることには生活上辛いものがあります。」と主張しているが、静岡南郵便局と清水郵便局とでは、夜間交代制加算額と夜間特別勤務手当の金額が異なるが、これは各郵便局の業務態様に従って定められたもので、これをもって差別を定めたものということはできない。勤務地による調整手当の金額も、勤務地に従って定められたものである。したがって、請求者が清水郵便局に勤務することになった結果として、支給されるこれらの金額が減少したとしても、これをもって、本件転任処分による不利益ということはできない。

 

イ「A−(U)について」

 通勤にかかる時間が、従来の15分から1時間近くなったことは不利益であると主張しているが、主任以下の職員の人事異動においては、通勤時間は1時間30分前後までとしている。請求者が主張するように仮に1時間近くかかるようになったとしても、一応の基準である1時間30分前後を大きく下回る時間である。社会通念上からみても、1時間近くの時間を必要とすることをもって、不利益を蒙ったということはできない。この程度の時間は、通勤時間としては、許容された範囲の時間というべきである。

 

ウ「A−(V)について」

 請求者は、本件転任処分により、地域区分局における郵便輸送、研究の自己啓発に努めてきたが、その目的を奪われた、としてこれを不利益としている。ところで郵便局職員が郵便局に勤務するのは仕事をするために勤務するのであって、自己の研究心を満足させるために勤務するものではない。仕事を通じて自己啓発をすることは、勿論、必要なことである。しかし、かかる自己啓発も、業務に優先すべきものではない。また、自己啓発は、静岡南郵便局でなければできないというものではない。どの郵便局に勤務しても、自己を向上させる意欲があれば自己啓発は可能である。それを、郵便輸送について研究して自己啓発をしていたのであるから、清水郵便局へ転任することは、請求者から自己啓発の機会を奪うものであって、不利益であるということは、仕事に対して個人的研究心を優越させる考え方であって、誤った考え方であることは明白である。

 

エ「A−(W)について」

 請求者は、十二指腸ポリープによる1年の経過観察を言われており、転任が精神的重荷になっている、としてこれを不利益と主張している。しかし、この主張は注意を要する点がある。その第一点は、「十二指腸ポリープによる」という表現を用いているが、この表現によると、十二指腸にポリープが現に発生しているかの如くに受け取られるおそれがある。実際にはポリープが発生しているのか否かは不明なのである。「成人病検診受検者の健康指導(通知)」(乙第14号証)は、「十二指腸ポリープ疑い」としている点に留意する必要がある。その第二点は、請求者は、「1年の経過観察と言われ」としているが、「成人病検診受検者の健康指導(通知)」には、「1年後に再検査を受けて下さい。」となっているのである。緊急を要する状態でないことは明白である。したがって、請求者の日常の勤務状況からみて、静岡南郵便局の総務課長は健康と判断し、請求者の清水郵便局勤務は差しつかえないと思ったのである。このような状況なのであるから、健康上の理由により転任は不適当ということはできない。請求者は、転任が精神的重荷になっているというが、それは請求者の単なる心情に過ぎず、不利益というものではない。

 蛇足であるが、請求者は、静岡南郵便局郵便課の仕事と清水郵便局郵便課の仕事を比較すると、清水郵便局郵便課の仕事の方が、「かえって楽なくらいです。」と発言しているのである(乙第16号証)。そうであるならば、健康上の問題についての精神的負担は清水郵便局郵便課に転任したことにより軽減されたというべきであり、不利益ではなく、利益になったというべきであろう。

 

4)請求者は、本件転任で静岡南郵便局郵便課は欠員になり、清水郵便局郵便課は過員になっている、業務上の必要に基づいていないと主張しているので、この主張についてみてみることにする。

 請求者の主張は、本件転任は業務上の必要に基づいていない、ということにあるものと思われる。業務上の必要に基づいていないということの理由として、静岡南郵便局郵便課は欠員になり、清水郵便局郵便課は過員になっている、と言っているものと思われる。そこで、両局の過欠員の点については後述することにして、業務上の必要についてまず述べると、この点については、先に「第3−2−(1)」で述べたとおりである。請求者は過員・欠員の発生したことをもって業務上の必要に基づいたものでないと主張しているが、これは請求者が主任以下の職員のち人事異動の意義・目的を理解していない、あるいは理解しようとしないことに起因する主張で、理由のないものであることは明白である。主任以下の職員の人事異動は過員・欠員の解消のみを呂的として行われるものではない。

 次に、過員・欠員の点に触れておくことにする。

 請求者の主張は、総務主任と主任以下の職員の職責の相違を無視して、両者を同質・同等とみているもので、この点で誤りを犯している。俗な表現になるが、「あたま数の問題」としてしかみていないのである。総務主任と主任以下の職員は職責が異なるもので、同質・同等ではない。だからこそ、総務主任の人事異動は、主任以下の職員の人事異動とは別に取り扱われているのである。その発令の時期が、主任以下の職員に対する発令の時期と重なったとしても、これは人事異動の事務手続き上の問題である。両者に対する発令時期が重なったとしても、総務主任と主任以下の職員とが職責上、同質・同等ということにはならない。

 なお、静岡南郵便局郵便課については、平成13年9月3日の人事異動で主任以下の職員が2名転出して、過員4名となった。また、総務主任については転出の職員はなく、転入の職員が1名で、欠員5名となった。

 清水郵便局郵便課では、請求者1名が転入して、過員が1名となったが、これは発令直前に転出することになっていたA主任について、健康上の問題が判明し、内命を取り消したことによるものである。

 

5)全逓静岡南支部書記長の請求者を切り捨て、職場から排除するための、嫌がらせとして行われたとの主張について

ア 請求者は、「転任処分に対する不服の理由」の中で、「全逓信労働組合の、静岡南支部書記長として組合活動の企画をし、9月2日の支部大会を経て、公社化を前にした重要な時期である今年の活動方針を考え提案した矢先のことで、私の精神的ダメージは大きいものです。」と主張している。しかし、この主張が理由のない主張に過ぎないことは明かである。なんとなれば、静岡南郵便局側が、請求者に多大な精神的ダメージを与えることを企図して、9月2日の支部大会の直後の9月3日に発令したものではないからである。当局側には、請求者に精神的ダメージを与えようという意思は全くない。それにもかかわらず請求者が精神的に大きなダメージを受けたというのであれば、それは請求者の個人的な感受性の問題である。請求者には、8月27日の内命まで、9月3日が発令日となることは知らせてないが、9月3日が発令日となることは決まっていたのである。これは、平成13年3月30に発 出された「平成13年度人事異動方針」で通達されていたところである(郵政局O証人の証言)。しかも、この9月3日の人事異動は、管内一斉に発令されるところの統一発令日である。全逓労組の一支部の書記長に嫌がらせをするために、管内の統一発令日を9月3日としたものではない。

 逆に、9月2日を支部大会の日と決定したのは、上記通達が発出された3月30日よりもずっと遅くなって7月の執行委員会で決められたということである。請求者の本人尋問をみてみることにする。

 

《請求者本人の供述》

(請求者代理人)定期大会、第13回の静岡南支部定期大会の開催は、いつ、どのような場所でいれたのですか。

(請求者)当初、8月5日か6日の日曜日ですけれども、8月5日か6日に支部大会をするのを6月ぐらいにもう決めていました。というのは、支部大会というのは全国大会が6月、地方大会が7月という経過を経て支部大会を開きますので、8月6日が支部大会という風に話を出していたのですけれども、7月29日の参議院選挙が支部として忙しくなりまして、それに追われて、どうしても私として議案書が出来ないということで、議案書の支部大会の告示が1ヵ月前ですから、7月に入って支部長にどうしても間に合わないから延ばしてもらいたいという風に言いました。7月の執行委員会で、それじゃあ、1ヵ月延ばして9月2日にしようという風に決めました。

(請求者代理人)7月の執行委員会、7月の何日の執行委員会か憶えてますか。

(請求者)憶えていないです。

(請求者代理人)7月の執行委員会ですね。

(請求者)はい。

 

 このように、請求者に対し、9月3日に発令したのは、当局側が9月2日の支部大会の開催を知って、それにぶつけて発令日を定め、請求者に嫌がらせをしてやろうという意思をもってしたものではないことは明らかである。

 

イ また、請求者は、「反論書」において、「公社化を前にしたこの時期、郵政は「新生ビジョン(案)」を提起し、全逓にも協力を求めてきています。この重要な課題について支部段階でも、局長と支部とで話し合いを持ち、支部からもいくつかの問題や提案をおこなってきています。8月23日の「平成12年度決算についての事業推進懇」でも多くの意見交換をしています。その立場の職員、書記長を平気で切り捨てる行為は、不当労働とも言えるのではないでしょうか。」とも主張しているが、この主張によれば、支部書記長のポストにある職員を転任させることは、不当労働行為的行為であるという帰結となり、支部書記長のポストにある職員は転任させられないことになる。支部書記長のエゴというべきである。

 

ウ 請求者は、その他の組合活動、支部書記長の役割・仕事の内容、支部の歴史、支部と上部機関との関係等々についても言及しているが、いずれも不当労働行為的行為に当たるものではない。それにもかかわらず、これらを不当労働行為的行為と主張しているのは、請求者の主観ないし心情を表明しているに過ぎないことは明らかである。

 請求者は、本件転任の内命を受けた後に、静岡南郵便局長に対して内命の取り消しを求めて、2回にわたって辞退届を提出している。第1回目の、8月27日に提出した辞退届では、辞退の理由として、「一身上の理由により辞退します。」となっている(乙第13号証の1)。第2回目の、2001年8月31日付けの辞退届では、辞退の理由として、「8月27日の人事異動、私への清水局への配転の内命については、当日、辞退届を提出してありますが、あなた様からの返答が無いため、ここに再度、提出し、以下の理由により辞退します。」(乙第13号証の2)と言って、辞退の理由を5点挙げている。すなわち、次のとおりである。

1 一方的な強制配転である事。

2 家族の経済的理由による事。

3 郵政事業人として自己啓発のため。

4 組合書記長の立場である事。

5 個人的健康上の理由による事。

 というのである。この5点の理由の中で、4番目に「組合書記長の立場である事」とされている。「不当労働行為的行為」とはされていないのである。

 以上のように、公平審査請求以前においては、内命の取り消しを求める理由として、本件転任が不当労働行為的行為であるからとの理由は主張されていなかったのである。それにもかかわらず、公平審査になると本件転任が不当労働行為的行為があると、突如として、その理由を激変させているのである。かかる激変は、本件転任が不当労働行為的行為であるとの請求者の主張が、公平審査対策用の主張として創作されたものであることを如実に物語っている。請求者の主張は理由のないものであることは明らかである。

 

6)以上、(2)から(5)においてみてきたとおり、請求者の主張はいずれも理由のないものであることは明らかである。

 本件転任は、職員の能力開発、人材育成及び職場の活性化を図る観点から、人事の刷新を図り、職員の勤労意欲を高揚させるために清水郵便局長が行ったものであることは明らかである。また、同局長は、国家公務員法第35条及び人事院規則8−12第6条により業務上の必要性に基づいて行ったものであることも明らかである。本件転任は適法かつ妥当である。